ノスタルジア

踏みつぶした上靴で駆け上がる
屋上へと続く階段
長く感じたこの距離もこれでもう最後だ
黒い筒をバトン代わりに
一気に駆け上がった
錆付いたドアノブに手をかけて
かけ声かけて開いた
光で溢れてる

胸の白い花が萎れてしまった
本物だったなんて終わってから気づいた
かわいかったからしばらくは記念にとっておきたかったのに
花はくたりと首を曲げてしょげてるみたいで
少し今の自分に似てる

日差しは暖かくて
でも空気はキンと冷えていて何だか変な感じだった
冷えた空気で澄んだ空はあおくて
雲はしろくて
頬はあかくて
グラウンドはちゃいろで
ここから見える担任の車はきいろで
色ばかりが浮かんでばかりで
だけど一年前にはなかった『いろ』がそこにはあって

くろい筒
萎れたしろの花

体の奥で軋んだ音がした
そんなものいらなかった
ここでずっといつものいろをみていたかった
みていたかった?

違う
まだそんな過去にするなよ
まだここにいるだろう?
まだ想い出なんて早すぎるだろう?

軋んだ音は大きくなって
一年前を呼び起こす
あのときの空が今と同じであおくて
雲がしろくて
頬はあかくて
グラウンドはちゃいろくて
担任の車はきいろで
そんなこと今 思いたくなかった
考えたくなかった
知りたくなかった
懐かしみたくなんかなかった

だってまだ
まだ 懐かしいなんて早すぎるだろう?







title:遠藤さあや
poem:澄吹