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 誰にも踏み込ませたくない場所?

 それならお前は踏み込んでくれるのか。












  + 聖地 +









 賑やかな場所が苦手だった。



「まーったく、ヒドいよね。
 僕の誕生会だっていうのにいつの間にやらいなんだから」

 想像通りの言葉。
 それも全然怒った風もなく、冗談めいた響きを持ったそれに、自然に苦笑いが浮かんだ。


「悪いな…途中までは頑張って居たんだが」
「分かってるよ。 人多い場所苦手だもんね、アイズは」

 そう言って笑う。

 いつも変わらない笑み。
 明るく、しかし落ち着きを持った雰囲気の笑顔は、いつも変わらなかったから。


 これからも いつまでも
 変わらないものだと思っていた。

 勝手に思い込んで、いた。











「……うぅっ…」
「…………………」


 このハートフルさに世界中の人間が泣いたんだよ!
 とか言いながら持ってきたビデオを、勝手に家に上がりこんで勝手にビデオデッキにセットした。

 そしてクライマックス間近で限界が来たのか、横にいる俺に隠れるようにして鼻を啜っている。


「どうアイズ?この映画感動するだろ?
 我慢しないで泣いてもいいんだよ」
「別に。 ていうかお前が泣いてる…」
「僕は泣いてないよ!?なんでそういうこと言うかなぁ!?」
「……」

 なぜ泣くのかというよりも、どうして泣いていることを隠すのかの方が疑問だ。

 なぜ感動する、そう なぜ「感情が動く」のかは何となく理解できる。
 主人公の必死の努力も虚しく、病気の親友が多大な愛情を形見に息を引き取る。
 同情できはするし実際感動的なものだと思う。

 でも涙が出てこない。


「まったく、こんな場面でも泣かないなんて…ッ」
「涙が出てこないんなら仕方がない」
「すっごい面白い映画観たって笑いもしないくせにー」

 そう言って口を尖らせるが、映画の余韻が残っていて目元が少し赤く腫れているのがなんとも可笑しかった。
 可笑しいと思っているのに、この顔は笑ってはいないんだろうが。




 泣かないと分かっていても。
 笑わないと分かっていても。



 それでも涙や笑いを共有しようと共に居てくれたことが、


「ま、仕方ない。
 アイズの分も僕が泣いちゃうし笑っちゃうもんね〜」
「忙しいな」
「そう思うんならぜひ手伝って欲しいもんだね」



 何より嬉しかった。











「泣くことはなくても、笑ってはいなくても。
 俺は確かに幸せだったと思うんだけどな」






 今も俺は泣けずにいるのに。
 これからも益々 笑えそうにないのに。




「……カノン」





 お前は今 どこにいる?















 終





アイズにとってカノンって存在そのものがそれだったんじゃないかなっていう話。
もちろん逆もあっただろうけどね。
なんか弱々しくて申し訳ない…;;

やっぱカノアイ大好きだなー。
でもカノアイで切ないの以外書いたことない気が…
今度ハッピーなやつも書いてみたいです^^