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 願わない以上には叶わないから








  + お墓参り +








「ふぅ…いいお天気ですねぇ」
 太陽が眩しい空を見上げ、ひよのが目を細めて嘆息した。
 手には小さな桶と柄杓、そして新聞紙に包まれた百合の花。

「えぇと…どこでしたっけ」
 独り言を言いながら、どれも似たような墓石が立ち並ぶ通りを歩いて行く。
 そして 確かここだ、と思える場所に入ろうとしたとき、その場所に先客がいて立ち止まった。

「?」
 自分の目的の場所に、と言うよりも備えられている花瓶と並んで墓石に座っている。
 見覚えのない少年に首を傾げながら、ひよのがゆっくりと近づく。
「あの…」
「ん?」
 少年が眩しそうにひよのを見上げ、そして数コンマ後に「…ああ、」と呟き、
「お下げさん、ここもしかしてあんたんとこの墓?」
「……えぇ、そうです」
「そら失礼したわ」
 言いながらどっこいしょ、と立ち上がる。
 そして怪訝そうに自分を見つめているひよのと目を合わせ、楽しそうに笑った。
「一人で来たん?」
「えぇ」
「そらあかんわ。 墓参りは一人で来たら仏さんに連れてかれてまう」
「どこの迷信ですか」
「沖縄」
「………」
 何なんですかあなたは。
 という思いをいっぱいにジト目で見てくるひよのに、少年はまた笑いながら、
「俺は大丈夫やで。 墓参りに来たんとちゃうし」
「…と言うかどうしてここのお墓に座ってたんですか。 うちの親戚じゃないでしょう?」
「あぁ、全然知らへん。 ちょっと考え事しててん」
「…よそのお墓でですか」
「人って 死んだら誰か墓参り来てくれるもんなんかな〜 思てたら、あんたが来た」
「そりゃあ来ますよ」
「俺が死んでも誰か来てくれると思う?」
「来てくださるといいですね としか…」
「でも来るとしたら何しに来るんかなぁ。 恨みごととかばっか言われるんちゃうやろか」
「それなら誰も来ない方が良いですか?」
「さぁ、どやろ。 そしたらやっぱ寂しいかな」

 その言葉にひよのはくすりと小さく笑って、
 墓石に柄杓で静かに水をかけ始めた。

「死んだらきっと寂しいですね。 生きている寂しさとどちらが上かは分かりませんが」
「ん?」
「いえ 何でもないです」

 ただの 恨み言です。

「……」
 小さく呟くひよのを、少年は驚いたとも何とも言えない表情で見つめて。
「あんたは、なして墓参りなんてするん? 寂しいからか?」
「……忘れないため と 忘れるため と・両方ですね」
 花瓶に百合を挿しながら。 石に話しかけるように、ひよのはぽつぽつと言う。
「俺は忘れられとうないな」
「死ぬことより怖いですか?」
「そやなぁ」

 頷く少年を見て、ひよのがくすくすと笑った。

「? 何がおかしいん?」
 首を傾げる少年に、ひよのは「…だって、」言いながら少年を見上げ、


「すっごくそんな目をしてます、あなた」


「は?」
「殺されれば一生覚えててもらえますよ」
「…!」
「でもそういうことでもないんでしょう?」
「……」
「難しいです、人の中にいる自分、実際歩いてる自分。 どちらが生きていれば満足なのか」
 そう言って、遠い目で。
 少年は目を丸くし、そして苦笑して。
「お下げさん、あんた何者?」
「それはこちらの台詞なんですが」

 ひよのも首を傾げ、小さく苦笑する。
 そして花を包んでいた新聞紙を丸め、空になった桶に柄杓と一緒に詰めこんで。
「それじゃ、私は行きますけど うちのお墓に変なことしないでくださいよ」
「例えば?」
「あなたが入るとか」
「あっはは、面白いなぁ」
「迷ってる人間は何するか分かりませんからね。 フラフラとお化けに連れていかれませんように」
「…おーきに」
「それでは、さようなら」

 最後ににっこりと笑うと、くるりと踵を返して歩き出した。
 その三つ編みの揺れる後姿を見送りながら、少年は空を見上げて息を吐いた。



 さよなら。
 きっと同じように迷いを抱いている人。
 きっと同じような傷を背負い苦しんでいる人。



 さようなら

 また一年後 逢う日まで。












 終





変な話ですネ!(オイ)
かなり久々で文の書き方が…;;;;
ひよひよと火澄は以前で接点があったの希望。