22


 信じて欲しいとかじゃない。
 こんなこと考えたこともあるって、知ってて欲しいだけ。








  + 繋ぎ止めるもの +








「……静かだな」

 ぽつりと言ったつもりの言葉がやけに大きく響いた。
 それほどまでに静かな部屋。




 白いカーテンは閉め切られてるが、洩れてくる光で今がたぶん夕方くらいだろうということが分かる。


 視線を落とすと、亮子が膝んとこに突っ伏して寝てるのが目に入った。
 いつの間にやら俺が寝ちまって、こいつもそうして今に至るんだろう。
 帰ればいいのによ。
 てかこいつこそ重症だってのにな。

 本当馬鹿なやつなんだよこいつは。






 苦笑し、少々寝苦しそうなその顔を見つめる。
 するとふと、昼のやり取りが頭に浮かんでくる。










「お兄ちゃん なんて絶対呼ぶなよな…」
 嘆息混じりの声が更に擦れ、静かな室内に響く。

 でも 曖昧なままなんだよな。


 たぶん、通じ合ってる伝わってる感情。
 でも 曖昧なんだよな 何か。




 結局どうあろうと俺がどう夢見ようがお前は俺の妹だろ?
 や、違うとか言っても事実そうなんだけどよ。

 お前の気持ち分かってる分俺はタチが悪いんだ。
 近づけないと分かってるなら、隣から離せばいいんだよな。
 でもそうしなかった。
 突き放す言葉を言えなかった。




 でも



 お前が望む言葉だって言えやしなかったんだ。


 兄妹だから近づけない、触れられない手も出せない。
 その続きだよな。


 曖昧だ。
 俺は何も言わなかったし、何か言える気もしねぇ。









 ごめんな、なんて言葉、適切じゃないだろ?



 ごめん、か。
 今俺の感情に一番近いのがたぶんこれなんだけど。
 それでもお前に一番言いたい言葉はこれじゃないんだ。

 お前だってこんな言葉、望んじゃいないだろ?








 どっちかが引け目を感じてるような仲なんて駄目だよな。

 でも 他のどんな言葉も、
 たぶん俺のお前への気持ちの言葉、どれも言っちゃ駄目なんだ。



 言ってしまったらこの距離が、
 この静けさが壊れてしまうんだ。



 この距離がいい、とか
 この静けさが心地良い、とかそんなこと思ってるわけじゃないんだ。






 それでも











 何か言ってしまったらこの距離が壊れるだろ?







 ほら、俺は あれだ。


 お前を隣に感じていたいわけじゃないんだよ。
 お前が離れようがどこにいようが俺にとっちゃ同じなんだ。
 俺が感じるお前は遠かろうと近かろうと同じだからさ。

 でも





 お前には
 俺をいつも隣に

 本当に隣に 感じてて欲しいんだよ。
 お前の隣に俺以外居て欲しくないんだよ。



 言えないけどさ。

 てか言わないけどよ 絶対。











 これって完璧俺のエゴじゃん?

 本当はお前を遠ざけること言わなきゃいけないんだよな。
 もっと幸せになれる相手のところに感情移せ、とかそういうコト言わなきゃいけないんだよな。









 でもそれも出来ねぇときた。








 ここ最近で色々ありすぎて、俺の考えは変わったんだ。



 俺がどんな罰を受けたって構わねぇ、ってのは変わらない。
 一番大切な    に幸せになって欲しい、って考えも変わらない。






 変わったとすれば








 その一番大切な    が幸せに笑えるとき、それが


 俺を隣に感じたとき であって欲しいんだよ。














 あぁ何もかも曖昧だ。
 これを伝える気もないし言葉で言えるわけもない。










「……………」




 1回嘆息。



 掛けられたシーツから右腕を引っ張り出す。




 嘆息  2回目。



 どこから風が吹いてるのか、揺れる柔らかい茶色の髪。



 そして3回目 息吐いて。






 その白い頬に 手を伸ばそうとして
 止めた。












 終





恥 ず か し く て 死 ね そ う だ

ガンガン先月号読んだ記念として。
ホントは亮子視点の予定だったのにたまには香→亮。
ぎゃー