誰も知らない、誰も知り得ない。
+ 人それぞれ +
「嬢ちゃん、一人のときはどんな顔してんだ?」
「はい?」
いつもいつも、会う度、見る度に。
変わらない笑顔。
幸せそうに、楽しそうに、嬉しそうに。
この世界の哀しみも憎しみも痛みもワタシには関係アリマセン、とでも言いたげなほどに。
ニコニコニコニコニコニコ。
「いっつも笑ってるからよ。 俺らに笑顔以外見せたことないべ。 一人のときもそんな風にヘラヘラ笑ってんのか?」
「ヘラヘラとは失礼ですねー」
そう言ってぷうと頬を膨らませる。
でも目は少しも怒ってなく。(寧ろ笑ってんだろう)
そして少し首を傾げて、視線を少し空に向けて。
「誰だって一人のときの顔なんて知りませんよ。 見る人がいないんですから」
そう言って、また笑う。
こいつが感情豊か?
とんでもない話だ。
「それじゃあ、そういう浅月さんはお一人のときどんな顔してるんですか?」
「俺か? まぁ色々だな」
「答えになってませんよ」
「じゃあ、もう一つしつもーん。」
「あぁ?」
「その一人でいるときの顔とか、表情とか。 そんなのに意味はあるんですか?」
「……?」
相変わらず、効果音が聞こえてきそうなほどに
ニコニコニコニコニコニコ。
今の質問はニコニコして言うには少し黒いモンだって気付いてんだろうか。
「一人でいるときの顔なんて誰も見ませんし、一人で怒ったり泣いたりしてても誰も解りません。そんなのに意味なんてあるんでしょうか」
「…それでも嬢ちゃんは人といるとき怒りも泣きもしねぇじゃねぇか」
「だって勿体無いじゃないですか。 せっかく誰かに見てもらえるなら笑顔を見てもらうのが一番ですよ、女の子は!泣き顔や怒り顔なんて見せられませんよ」
「…………」
これだよ。
何か足りないんだよこの女は。
一番完璧そうに見えて一番完璧を装ってて。
ていうか気付いてないだろ?
それじゃあオマエの怒りとか泣きたいのとか。
そういう感情すら無意味なのか?って話。
「大体、浅月さんはいっつも仏頂面なんですよねー」
「嬢ちゃんはいっつもヘラヘラしすぎなんだよ」
「失礼ですねー」
なんとなく気付いてしまった。
笑うこと、
強くいること、
幸せそうであること
それを他から常に認められていること。
常にヘラヘラ笑って、それがワタシの幸せですよ、とか。
涙も怒りもいらないんです、とか。
それを示すことが、
この女の精一杯の涙であり、何より自分への怒りであり。
痛々しい。
感情豊か?
とんでもない話だ。
他人の世話しか出来ねぇ不器用人間め。
心の中で優越感に浸り、薄っすらとほくそ笑む。
晴れ渡った空に雲がかかり、光が翳り。
それでも眩しいあの女の笑顔はやっぱりニセモノだ。
そう決めつけて優越感に浸り。
やっぱりそんな俺が一番駄目なんだろうな、
とか気付いて一人笑った。
終