18




 遠い日のいつかの話








  + 不発弾 +








「もし、私が死んだらどうしますか?」

 悪戯っぽく、試すような口調でひよのが微笑んだ。
 縁起でもない。
 アイズはそう思いながら、どう答えれば良いか分からなくて。


 ずっと無言で見つめてくるアイズの、真意が読めそうで読めない。
 ひよのは苦笑した。

 そして首を傾げて少し考えた様子を見せると、


「じゃあ、もし。 私が無理やり他の人に奪われてしまったら、どうしますか?」


 自分でも例えが可笑しいのか、困ったように眉根を下げて笑いながら。




 アイズの、ひよのへの気持ちの大きさ とか。
 そういうのを試そうとしているんだろうか。

 アイズはそう判断し、でもまだどう答えて良いか分からなくて。





 もしひよのが死んだり、手の届かない場所に連れて行かれたりしたら。


 どうするだろうか。




 怒ってその相手に手を掛けるくらいのことはできるだろうか。



 大切だと思う気持ちが大きければ、失ったときの激情も大きいものだろうが。
 悲しみや怒り、そういうものが爆発するだろうか 自分は。




 もちろん大切だと思う気持ちは大きい。
 彼女以外見えない なんてどこかのドラマのような台詞を吐くつもりはないが、
 彼女以外自分の心をそういう意味で預けたいと思う人間は今のところ思いつかない。




 けれど。
 そんな彼女が奪われてしまったら?










「…俺はただ 落胆してるだけだろうな」



 そう


 頭の中は冷えたまま
 しかし何もできずに


 できることと言えば


 ただ愛しさを抱き締めて




 忘れるまでは



 その名を呼び続けるだけ。







 静かに答えたアイズに、ひよのは酷く安心したような顔を向けて。



「良かったです」

 とだけ答えた。
「何を期待していたんだ」
「期待というか…その答えを予想していたんです」
「…?」


 なぜ?と目で問うてくるアイズにひよのは嬉しそうに笑い、







「奪われたら奪い返す、とか やられたらやり返す、とか。  そんな生き方は、あなたには合いません」







 奪われるだけ。
 悲しむだけ。
 憎まれるだけ。



 でも何も奪わない。


 ただ泣いて
 愛して





 それだけ。











 ああ、 きっとそうだと思う。










 どんなに目の前の人間が愛しくても
 否、愛しいから。


 それを失っても


 何もできず



 できることと言えば


 ただ愛しさを抱き締めて




 忘れるまでは



 その名を呼び続けるだけ。







 目の奥が眩しくて、どこか哀しくて


 否、哀しいから。









 失わない今の時点でできることは



「いなくならないでくれ」








 そう祈ることだけ。












 終





あれ?題違う?(死)

いや、不発弾つーのは、どんなに相手を憎もうとしても爆発できないラザの心でね、…(…)
私の中でラザはこんな感じ。 とにかく優しい。
悔しいくらい憎らしいくらい、歯がゆいくらい優しい。