あなたはいつまで知らずに居る。
+ 秘密 +
舞う花びら、花を掠めるほの甘い香り。
春が近づいているのだと、知った。
拒んだのはあたし。
カノン君はずるい。
「好きだよ、理緒」
「ふぅん…あたしはカノンくん好きじゃないよ」
自分の気持ちだけ正直に言って。
分かってるくせに。
相容れるはずはないって。
互いの想う気持ちは互いを不幸にするだけ。
手を繋いだら離せなくなる。
ならば最初から繋がないほうがいい。
勝手な解決策。
お互い、誰ともなしに知っている妥協策。
実は被害妄想、弱い逃避の和解策。
「好きだよ理緒」
「………」
受け入れなければいいのだ。
片方がどれだけ想いを告げてきても、もう片方が了承しなければ成立しない。
恋とはきっとそんなものだ。
そんなものだ。
近づいたら不幸になる。
私も不幸になる。
何よりカノン君を不幸にしてしまう。
だから
「好きだよ」
その言葉、絶対に受け入れない。
「あたしは好きじゃない」
ずるいよ。
嘘を吐くのはいつも私。
カノン君に向かって「好きじゃない」なんて。
「好きだよ」なんて紡がれる甘い言葉の返答がそれなんて。
なんてひどい。
そうさせるカノン君を本当に嫌いになれるまであとどれくらいのやりとりが必要かな。
嘘ばかり言ってるという秘密。
気付いているのか、いないのか。
カノン君のことだからきっと、
お互いの幸せのために〜とか、そんな適当な正論っぽいこと言って勝手に納得するために、
あたしが本心でそう言ってるんだろうとか自分に思いこませようとか
そんな勝手なことして自己解決してるんだろう。
そして一人勝手に、いつかどこかに行ってしまうんだろう。
カノン君のこと好きじゃないあたしなんか放って。
なんて、ひどい。
『嫌いだよ、カノン君なんて』
この言葉だけは絶対に言えないでいる、この秘密。
これだけは気付いて欲しいものだけどなぁ。
舞う花びら、花を掠めるほの甘い香り。
春は、近づいている のに。
終