あなたとあたし、その距離に虚無を。
+ 晴れたらいいね +
「理緒――」
「あたしはカノン君好きなんかじゃないってば!!!」
ついに怒鳴った。
怒鳴ってカノン君を振り返りもせずにダッシュで逃亡。
そしてそれを、
こーすけ君に目撃されてしまったわけだ。
「いや、別に前から知ってたし。 お前らの関係」
「関係ってどんな関係? こーすけ君に何がわかるの」
「そんな喧嘩腰になんなって。 ガキかよ」
「そっちこそあたしに喧嘩売りたいわけじゃないでしょ!」
あぁだめだ。
ムシャクシャする。
口に運んでるパフェを苦笑してるこーすけ君のその顔に投げつけてやらないのは勿体無いからだ。
奢ってもらったんだし。
「大体さー…なんで拒んでんの、お前? カノンの事をよ」
コーヒーのカップを取り、小さく嘆息しながらこーすけ君が言う。
呆れ半分というか、子どもを宥めるみたいな口調だ。
「深ぁい事情があるのよあたしには。 幸せになるには仕方ないじゃない」
そう。
しかたない。
一緒にいれば不幸になる。
離れられなくなる。
自由を奪って強い感情で縛って、
そして駄目になってしまう 二人して。
するとこーすけ君が苦笑した。
なんとも言えない、優しい笑みで宥めるように 子どもを。
「幸せになるために好きになるのかよ? 不幸にしないために好きにならないのか?」
何。
その言葉。
「好き同士一緒に居てはじめて幸せじゃないのか? 感情押し殺して離れていることこそ不幸じゃないのか?」
何。
こーすけ君、
あたしのここずーーっと長期間に渡る不幸どん底の思いをかき消そうって言うの?
プチお馬鹿なこーすけ君が?
でも違うね。
本当に馬鹿なのはあたしだね。
世の中怖いものだらけ。
世の中信じられないものだらけ。
変わらずに続いていくものなんかないし、
ましてや人の言葉なんて本当に嘘の証明みたいなものだと思うよ。
でもとりあえず、カノン君のあたしの顔見たときの合言葉になってる(考えたらすごくアホっぽいよ、カノン君まるでたらしだよ)「好きだよ」の言葉。
あれが貰えなくなる前に。
言わないとね。
早く驚く顔が見たいよ。
雲は全部かき消えたわけではないけれど。
花は散り切ったわけじゃない。
花びらは舞い踊り、ほの甘い香りが広がり。
春到来、これから花開く合図。
あたしの大気、梅雨前線は遠ざかり、
雲はいつかは流れて空は快晴、
そうだといいね、
そうだといいよ、カノン君。
終