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 その向こうに君はいるのかいないのか。








  + その電話を切る勇気 +








 朝方の君からの電話
 君限定、非常識な電話もとってしまう

 電話口の明るい声は掠れた声など気にも止めない
 一番の目覚ましだったのは君の明るい声
 その鈴の鳴るような声で紡がれる
 嘘のような話題



 嘘を嫌う君 信じて欲しがりの君が
 こんな信じられない話をするのは初めてで
 僕は少しだけ笑ってしまった



 朝型の君からの電話
 早起きな君は電話向こうの低血圧など全く気にしない模様

 これを切ると君は行ってしまうと云う
 嘘か 本当か
 これを切ると何も残さず消えてしまうと云う
 嘘か 本当か










「なぁ、おいちょっとどういうことだよ」
「だーから、言ったじゃないですか」
「何を」
「さようなら、鳴海さん て」
「……悪ふざけはよせ」
「どんな悪ふざけですか」
「鳴海さんが哀しむかどうか知りたかっただけですー とか」
「あはは。そんなの試す必要もないですよ」
「どぅいう意味だよ」
「もうそっちで泣きそうでしょう?」
「……………」

「私が 泣い てるんだから 鳴海さんだって泣いてください よ」

「…………………」











 朝方の君からの電話
 脅威的破壊力を持ったその話題その口調に動け出せずにいる僕

 さよならという言葉は思っていたよりもずっと現実的
 思っていたよりも光速に脳内に浸透する

 さようなら
 さようなら

 何が何も残さないだ
 どうせなら全部持っていけという話
 一番重要なものだけ取り除いたこんなに多くのものを
 君は僕にプレゼント


 今二人を繋いでいるものは
 この電話のか弱い一本線だけ

 既に切れた君の電話
 ツーツー何回目だろうとぼんやり思ってみる
 こんなに多くのがらくただけ残って
 僕はすべて理解し すべて享受したつもりで

 ただこの電話をいつまでも切れずにいた












 終





題の中で一番歌のタイトルっぽい題だったので…
変な話だ…(一番の感想)(オイ)