04


 もう、いいんだよ。








  + 冷たい手 +








「ゎわっ!」
「ったく…何してんだよ、ドジだなー」
 転んだ自分に、そう言って笑いながら
 ホラよ、と伸ばしてくれた手。




 それがとても、暖かかったことを、今でも覚えている。










『ありがとう…お兄ちゃん』























「くぉら、このバカ香介!!!何してんだ、早くパン買って来いってんだろ!!」
「ってーーな!!だからすぐ殴んなっつってんだろーがよ!大体何で俺がお前の……」

 結局もう一、二発の拳を食らってから、浅月は渋々と購買へ向かった。
 シャキシャキ歩け!などと後ろから声を浴びせながら、その背中を見送って嘆息する。

 運動場が見える窓際にもたれ、歩いている生徒を遠い目で眺めて。


 明るく友達と話をしながら笑い、ふざけあっている彼らを見て、無性にやるせなくなる。


「ほんとなら…香介もあの場所にいるはずだったんだよな……」




















 思い出す、紅い光。



 どこまでも暗く、どこまでも深いものが、
 『彼』を掴んで、遠くへと連れて行ってしまった。
















『…悪いな、亮子。もう俺の手、汚れちまってんだよ……』

















 彼のあの、暖かな手を。自分から引き離して、持って行ってしまった。




















 いかないで。
 つれていかないで。








 誰にこの気持ちを伝えれば、響くだろう。

























「わっ!!」
「!!!!」


 耳元で大声を出され、驚いて窓枠で体を支えていた手が滑って。
 一気に視界が反転したところを、浅月がまた慌てて掴んで引き上げる。


「ははは!何やってんだよドジ」
「うっさいな!!お前が驚かしたんだろこのバカ香介!!!」
「何だよ、考えごとかよ?」
「……別に!」








 未だに収まらない心臓を抑えるように胸に手を当てる。











 一番驚いたのは。


 一瞬の間だったけれど、掴んでくれた彼の手が





 とても とても冷たかったこと。



























 ………全部、持っていかれてしまう―――?



























「はぁ…」
「なんだよ、そんなにビビっちまったのか?悪かったな」
「顔は謝ってないよ」
「そりゃそうだろ。あのマヌケ面…」

 続く浅月の言葉を拳で遮り、礼を言う気もなくしてパンの袋をひったくる。
「あ、ひでーな!せっかく人が寒い中外で列に並んで買ったんだぞ!手なんかすっかり冷えちまって…」
「うるさいっ」




















 言いながらバシン、と浅月の背中を叩いて、笑う。

 満面の、笑みで。



















 今は、知っているから。












 昔、限りない安心をくれた暖かな手。










 今は、その冷たい手がいつも。

 暖めてくれる。







 こんなにも。

























 今でも変わらずに、その人は暖かい。





















 終





幼馴染っていいよね・・・(逃)