強く、なれるかな?
+ 長い長い夜 +
「夜がずっと、明けなければいいのに」
いったいどんなドラマの月並みな台詞だろうか。
まぁ、それは自分自身の口から、たった今出た言葉なのだけど。
「ん?どうしたの、急に…」
「だって、朝になったら行っちゃうでしょ?」
「そりゃそうだよ。ただお見舞いに来ただけだよ」
「じゃあ昼間来たって良いじゃない。こんな時間に来て、いかにも最後の挨拶って感じでさ!」
開け放たれた窓からカーテンを掻き分け、流れ込んできた風が灰の髪を靡かせる。
ある一人のハンターを退けた戦いで負傷して、入院することになって十日は経つだろうか。
満月がきれいだった。
こちらの心まで穏やかになるほど、まあるく淡い光を放つ月に魅入って、しばらく窓を開け放っていたら。
長い間顔を合わせていなかった仲間が、突然窓から入ってきたのだった。
「………最後の挨拶、か」
「…否定しないんだね」
「…………まぁ、何て言うか。」
寂しそうに、しかし笑顔を浮かべる理緒に、カノンもまた困ったような曖昧な笑みを浮かべる。
「なんとなく、わかるよ。カノン君、あっちに行っちゃうんでしょ?」
「……………」
「ずっと一緒に。…みんな一緒に、がんばっていけると思ったんだけどな…」
「どんなに夜が良くても、いつかは朝が来てしまう。…それと同じなんだ。どんなに今の場所が良くても、いつかは…」
「答えになってないよ」
「はは。自分でもそう思ったよ」
そう言って頭を掻くカノンに、理緒はふっと静かに微笑って。
俯いてぽつりと呟く。
「そうなんだよね。いつかは……朝が、来ちゃうんだよね。カノン君、いっちゃうんだよね」
どんなにこの場所が良くても。
どんなに一緒に居たくても。
逃げ場所なんてないのだから。
自分たちに何かを望む権利なんて、与えられていないのだから。
ただ与えられた苦痛の道を呑んで歩くだけ。
そう考えていれば、諦めがつく、かな。
醜く足掻かない分、強くいられる、かな。
「あーあ、やっぱりこうなっちゃった…」
体中が痛い。
現に目の前は半分は霞んでいるし、むしろ痛みを感じていられる分まだマシといったところか。
銃口を向けられたのは、ほんの十数分前。
仲間の、何より自分の死を覚悟もした。
でも、奇跡がひとつ起こった。
その場は切り抜けることができ、仲間も皆、死を免れた。
それを喜ぶ間もなく、ずっと賭け続けてきた希望をも、潰えようとした。
そして、また奇跡が起こって。
ナイフ一本を手に一人カノンのもとへと行ったひよのの軽い足音も、今さっき消えた。
横を見れば、歩やまどか、浅月や亮子がいて。
皆で、考えている。
救われる、術を。
カノンを、誰をも死なせない術を。
『いつかは、朝が来てしまうから』
いつだったか聞いた、あきらめの言葉。
「………」
傷に包帯を巻きながら、ふっと理緒が小さく微笑う。
「……カノン君、あたしはまだ諦めないよ」
諦めないで。
どんな暗闇でも。
手探りしていれば、光がきっと手を伸ばしてくれる。
いつかは。
そう、いつかは。
「だから、足掻いてみようよ。 今度は、あたしが言うからね」
どんな暗い夜でも、凍えそうな夜でも。
どんなに、どんなに長い夜でも。
必ず、朝は来るから。
終