01


 届かないから、願うんだ。








  + SPAIRAL act0 +








「…アイズ?どうしたの?」
「………」


 静寂と闇が支配する真夜中。
 大きな蒼白い月が、雪の積もったそこら中を煌々と照らしていて。

 ベランダの手すりに寄り掛かり、遠くを見つめたまま動かないアイズに、カノンが訝しげに声を掛けた。


「中、入りなよ。風邪引くよ」

 何かを考えている彼の横顔は、空に浮かんだ月にとてもよく似ていて。
 綺麗で

「……………」


 とても 冷たくて。



「…アイズ、何を考えてるんだい?」
 無粋な顔のまま沈黙し続けるアイズに、カノンが笑って諭すように言った。

「……………カノン、」
 寒さのせいで掠れた声が、自分の名前を呼んだのに少し安心しながら「ん?」カノンが相槌を打つ。

「…本に、書かれていたな。月や…星に。祈ると叶う、と」
「………ああ、あれか…。うん、確かにあったね」
 何か祈ってたの?
 そうカノンが問うと、アイズはそれには答えずに、再び月を見上げた。



「叶うなら、祈ってみるのもいいかと思った。だが…そんなことで」
「叶うはずない、って?分からないよ、祈ってみるまで」

 諦めたように首を振るアイズの言葉を、カノンが遮る。
 その言葉にアイズはきょとんとカノンの顔を見つめたが、やがてふっと静かに微笑って言った。

「そうか。…カノンは強いな」

 カノンは困ったように、でも少し嬉しそうに笑って。
「アイズが強くいさせてくれるんだよ」

 その言葉にまた、「…そうか」アイズは静かに微笑った。




 やはりその横顔は、頭上で青白い光を放っている月と、驚くほどよく似ていて。




 カノンがぼんやりとそう考えていると、アイズは「……だが、」ゆっくりとカノンに視線を戻した。

「…本当に。月や星では、俺の願いを叶えることはできない」
「何なの?その願いって」
「……お前と同じだと、思う」
「たぶんそうだろうね」
 くすくすと笑い、手すりに背で凭れながらカノンも月を見上げる。

「僕たちの願いは、僕たちにしか叶えられないね」
「叶えられるか?カノン」
「そんなの簡単だよ。 一緒にいるから、ずっと」
「………そうか」








 それは一番、何よりも 簡単なことで。

 でも時間が経つと、それは一番、何よりも 難しいことになっていくから。


 今はまだ、笑っていよう。
 あとでちゃんと気付くから。







 寒いベランダにも、二人いたから微笑って居られたこと、
 一人ではとても歩けずに、凍えてしまうことも

 やはり願いは、自分自身の力でしか 叶えられないということも。





 そしてきっと、わかるから。




 どれだけ願っても、祈っても
 足掻いても涙しても



 叶わない願いも






 あるということが。




















『ずっと一緒にいるから』






















 ごめんね。










 初めてきみに、












 嘘を吐いた。






















 終





この二人スキーさん、ごめんなさい。(平謝り)