幻日を 払へどふはり 光冠の
我が身焼く贖 あまねく彩光
誰の意識からも一瞬にして消えてしまえる方法ならいつも探してる。
人間誰しもに与えられた最も残酷な感覚とは、罪悪感ではないかと思う。
俺なら数年前に自らの作為や不作為によって起こった出来事によってこの脳内だか胸の奥だかに圧し掛かった罪悪感に苛まれてどれくらい経つだろう。
自分に死んでしまえと本気で思って思い詰めてそれを実行して成功出来ればそれでいいかもしれない。
でもそれによる『成功』なんてありえない。
どうすればいいんだ。
誰の意識からも一瞬にして消えてしまうなんて不可能だ。
この空が晴れているゆえに青いものを、晴れて晴れて晴れすぎて俺を焼いてしまえば良いのか。
いつか天地が逆転して俺が、俺だけが空に沈んでしまえれば良いのにとは思うものの。 それが実現される日を待つほど俺は気が長くない。 でもあの蒼に溶け込むことが出来ればそれはそれは心地良いことだと思う。
雨が降って降って降りしきって俺を流してしまうのならばそれも良い。
けれど俺を流しきるほどの雨ならば俺以外のものだって簡単に押し流してしまうだろうから、それでも良いと思えるほど俺は利己的になれない。 俺に出来るのはせいぜいが雨の音で掻き消してくれることを狙って心の中の憂いや憤りを精一杯の小さな声で吐き出すことくらいだ。
風が俺を中心に半径40センチくらいに集まって一気に巻き上げて俺だけを遠いどこかに吹き飛ばしてくれる、ということも思い描いたことはある。
けれどそれはあまり上手くない考えだ。 吹き飛ばされたからと言って人の意識から消えてしまえるわけじゃない。 辿り着いた場所で俺は新たな俺になってしまう。 それはそれで格好良いなとも思う。 風来坊。 風天の俺。 けれど無理だ。 罪悪感なんて感情を持て余してる時点で俺は風天なんてものにはなれやしない。
雪。 雪を使えば一番綺麗に消えてしまえる気がする。 雪そのものが綺麗だから。
だけど雪の中に俺が混ざってしまえば雪はその綺麗さを失ってしまうだろうし、寒さで形が崩れることもなく地に還れない俺がいつか発見されてしまうのは気が引ける。
雲を使った消え方はどうだろう。 あの水分と電気の塊を突っ切ってしまえば俺の身体は一体どうなるのか。
外側から見た分にはふかふかと気持ち良さそうだからあれに住むことが出来れば俺は少なくともこの世界から足を離すことが出来るということになるので大いに満足なんだけれど。
けれどいつかは蒸発するか、雨になって地上に降らなければならない。 それは御免だ。
嵐。 台風が来れば必ずニュースでは誰かが死ぬ。 海に攫われたり川に攫われたりする。 強い風に攫われたり雷で一撃で焼き尽くされる人間もいるかもしれない。
そうなれば俺がこの中で許せるものは雷だけだ。 一瞬で・という意味においては最高だと思う。 けれど俺と言う影を地面に焦げ付かせてしまうのは世の中に対して申し訳が立たない。
夜といえば月だ。 けれど月がどうやって俺を消してくれると言うんだ。 最接近した際にその引力でもって俺を月に連れて行ってでもくれるのか。
月といえば色んな嫌なことを思い出す。 月でいえば俺は何も無い真っ暗闇で存在しながらもそこに誰も見つけてくれないという意味で新月だと言うと、何事にも始まりはあってそれは何も無いことから始まりそれは苦しい。 それをキミは引き受けてくれるんだねと、満月のような温かい人間がそう言った。 その思い出である意味俺は死にそうなほど胸が詰まる。 そういう意味で死ねはするがそういう意味以外では死ねない。
そして俺の願い。
誰の意識からも消えてしまうこと。
けれど消えてしまった後で探して貰うことを、どこにも居ない俺の名を呼んで彷徨ってくれることを願ってしまうのだろう。
そしてちゃっかり現れた俺を見つけて指を指して俺の居る足元だか麓だかを探してもらえたりするとさぞかし気持ち良くなってしまうんだろう。
そう、消えてしまうなら。
俺は虹が良い。
美しく消えることが俺の存在意義、とか言って。
そうあれればどれだけ良いか。
俺がどんなことをしたからこんな風に消えてしまいたいほどの罪悪感に捕われているのか。 説明するのは至極簡単なことで。
消えてしまう予定の人間に、それを知らずに「いなくなってしまえば?」と言った意味のことを言ったり、明らかに俺に手を握って欲しがってるだろうなと解ってる人間の手を敢えて取らずに酷く傷付いた顔をさせたり、「大丈夫か」その一言がただ面倒で言えなかったり、そう、今のものも。ただ言わなかっただけのことを言えなかったとか言ったり。
そんなことだ。
よくある話だ。
それだけで消えてしまった方が良いのならば世の中のほとんどの人間は消えている。
だけどそう。
消えてしまえば良いんだ。
俺はそんなことを泣きそうになりながら本気で考えたりする。
でも消え方が思いつかなくて、誰にも気付かれないで消える方法が思いつかなくて泣きそうになったりする。
けれどそれが見つからない理由は、それが存在しないからではなく、俺が本気では望んでいないからなんだろう。
誰にも気付かれないで消える方法なんて本当は俺は望んでいないんだ。
もっと言えば消えることなんて本当は俺は望んでいないんだ。
もっともっと言えば、この罪悪感は俺から消えることは無いつまりこの感覚を自虐的だったとしても引き摺り・たまには見せびらかしながら生きていくことを望んでいるんだ。
俺は虹のようになりたい。
虹のように消えたいのでなく。
でも虹の存在意義なんて俺には知れないので本当は虹になりたいなんても思ってない。
俺はこの目にあの七色の虹彩を湛えて罪悪感を振り切ったり抱えたり振り回したり見せびらかしたり誰かを救ったり誰かに救われたりつまり誰かと関わりあうことを捨てきれないのであって、結局は感謝してしまうんだろう。
この俺を取り巻く人間や環境、町や国や俺自身だけの世界を。
俺の目の中の虹はすぐに逃げて行ってしまうけれど。
俺の身勝手な罪悪感ならば払拭されなくて構わないから。 どうか俺が虹を見てあんな風に消えたいとか思っている下らない時間の間だけでも、俺が傷つけてきた人間がその虹彩に浪漫だか夢だか安堵だかを見つけて少しでも笑んでくれればいい。
そして多分、俺の消えたくなる思考は繰り返し。
その消えたがり振りは恐れ多くもあの虹のようだと、誰かが言った。
それが光栄に思える今の内に、ああ虹のように消えてしまいたい。
誰も俺を探すんじゃないぜ、とか何とか言い残して。
end.
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サイト8周年記念!「空的なお題でSS」で、「虹」テーマのSSでした。
これは初めから、他の7テーマを収束するような感じで二次創作でないオリジナルでまとめようと決めていました。
他の7テーマ・7ジャンル(FF4「晴」・螺旋「雨」・FF7「雪」・幻水「風」・ゼノ「雲」・バトロワ「嵐」・銀魂「月」)を全てお読みいただいた方なら、ほんのちょっっっとだけ楽しさが増える…かな?(笑)
09.09.09
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