失いたくなかったはずのもの?
 そんなもの、失くし去って とっくに忘れた。











          聖域なる場所












 目の前で白い光がちらちらと煩かった。






「鳴海さん、鳴海さん」






 何度も俺の名前を呼ぶ光。

 ちらちらと
 この瞼を焼くように
 この目から暗闇を奪うかのように白く燃えるそれは



 とても煩かった
 けれどそれはとても気持ちが良い光だった。




 はじめは 俺に向けてしか輝かなかった。

 その白い光はこの世界全てを照らす太陽なんかよりも小さくて

 でも その存在すべてで俺を照らせば




 太陽なんかよりもずっと 俺にとって必要なものだった。









「鳴海さん」





「私は、あなたが――、です」








 あぁ、何ていう名前だったかな。


 白くて小さい光。
 鈴の鳴るような声。

 俺の世界に響き渡る音。












 まるで聖者だった。
 俺をいつだって信じてる
 こいつは聖者みたいで

 俺はこいつがいつだって祈りを捧げる神みたいなものだった








 でもいつしか

 その白い光は
 俺だけのために光っているわけじゃないことを知った




 全てを照らそうとしている。
 あの太陽みたいに。




 もしかすると 世界がこいつに合わせて白く輝いていたのかもしれない
 その中で一際輝いていたのがこいつだったというだけで。








 それを知った俺の世界 俺の部屋 俺の場所は
 暗闇に包まれていった


 光が必要だった



 俺はそれだけが必要で

 それにも俺だけを必要として欲しかった






 光が 必要だった







 だから 閉じ込めて
 この部屋を聖なる光で埋め尽くそうとしたけれど




 どうしてか輝かなくなってしまった








「………………」







 鈴を鳴らさない。
 この部屋に響き渡らない。



 どうして?

 今までは何で輝いていた?







 ここに閉じ込められる前の彼女のあの白くて眩い光はどこへいったのか


 考えてみたけれどわからなかった














   終








変な話が書いてみたくなったんです。(…)
鳴海歩氏の緊縛。 あの鳴海清隆の弟ならやってしまえそうです。
ひよのさんは万人のためのもの ってんじゃなくて、
ひよのさんって能動態な生き物だと思うんです。 受動態じゃなくて。そういう話。自己完結。

3周年企画でいただいたお題、「聖域なる場所」(鳴ひよ文)でした〜。
なんかこのお題だと自分の中でイメージが1パターンで甘いというか「この場所は命よりも大事な守るべきもの」的なものが浮かび上がるんです。
なので無理やり転換させました。
部屋の中に聖域を作ろうとする鳴海氏。
頭に浮かんだものを手探りで繋ぎ合わせていくのも楽しいですが、
こんな風に無理やり頭に浮かんでいなかったものを変体させながらっていう作業も楽しい。ていうか文って面白い。

素敵なお題ありがとうございました〜!


05/08/25


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