暗い夜は怖かったけど
 不思議とこわくはなかった。




 私がいるから
 暗い夜も怖くない、

 そう思ってくれる人がいるということを



 知っていたから。






 打算的でしょうか。

 偽善でしょうか。




 いぃえ、これは、救済手段。




 私への。









     Let there be light













 私は非力だったけれど、
 幸いなことに馬鹿ではなかったから人の役に立てることはできた。

 でも不幸なことに馬鹿ではなかったから、
 その後色々考えてしまったりもする。




 私は今、心から喜んでますか?
 私は今、本当に幸せですか?
 私は今、あの人の笑顔を心から望んでますか?



 嘘は吐いてないですか?
 嘘じゃないですか?

 嘘っぽくないですか?


 嘘だと思われてはいませんか?







 こんな風に考えてしまうのはきっと、
 私が非力だから。

 時々自分で自分が頼りないから。


 支えたい人がいるから。
















「どうしたんですか、鳴海さん?」

 いつもなら図々しいほどに部室にずかずかと入り込んでくるくせに。
 今日はドアの前で無表情に立ち尽くしている鳴海さんに、声を掛ける。
 すると彼は思いの外涼しい顔で肩を竦めてみせた。

「…いや、気分はどーかな って」

「…どういう意味ですか」



 正直気分は最悪だった。






「…『この偽善者が!半端な親切心でできもしないことにでしゃばるな!!』」
「…………」

「廊下の端まで聞こえた」

「…そのことですか」


 事件は今日の放課後。
 多くは語るまい、ただ私は良かれと思ってやった。




 でも他人事だったのは確かで。




 それが見事に裏目に出てしまった。











「それで私がへこんでるかもしれない って?」

「まぁな」

「全く…鳴海さんは私をよく分かってないみたいですねー。
 このひよのちんがあれくらいでしょげるわけないじゃないですか!」







 正直気分は最悪だった。













「…今日は金曜日だな」
「どうしたんですか、藪から棒に…」


 ぽつりと呟きながらも、彼は椅子を四つ付けてならべている。
 何がしたいのかよく分からない。


「明日明後日は土曜・日曜と連休だし
 遊びに行くのはもってこいだ」

「…それで?」



 意図が分からない呟きが益々怪しい。
 一体何を企んでるのやら。
 私が訝んで訊くと、彼は並べた椅子にごろんと横になると、けろりとして言った。





「じゃあ今日はここに泊まって行く」




「はぁ!?」
「あんたも付き合え」
「なんでそーなるんですか!」


 全く。
 全くもって意味が分からない。



「今何時だ」
「えぇと…9時前です」
「もう外は暗い」
「そりゃそうですよ」
「しかも最近悪天候続きで月明かりもない」
「それが何か?
 …まさか暗いと怖くて帰れないなんて…」
「アホか」
「だって何で帰らないんですか!
 よりによって学校に泊まってまで…」



 呆れ顔で私が捲くし立てるのを遮るように、彼が小さく笑って言った。



「今日は家に兄貴が帰ってくるみたいなんでな」
「……………………」


 彼は新婚の兄夫婦と共に住んでいる。
 まぁ、ほとんど義姉と二人暮しと言ってもいいほどだけど。

 刑事であり探偵であり、また放浪癖のある兄が家から離れている間は、
 義姉が寂しくないように一緒にいたり。
 また兄が家にいるときは、新婚の二人の邪魔をしないように家を離れたり。

 彼は色々気を遣ったりしているようだ。





 彼の言葉にそれ以上私は何も言えなくなり、そうですかとだけ答えた。



 億尾にも出さないが、彼はその義姉に片想いであったりもするし。
 何かへこんでいたりもするんだろう。




「いいですよ。 それじゃあ私も付き合います。
 その代わり明日は鳴海さんの奢りで遊びまくりましょう!」

「こんな天気も悪いのにか」

 そう言いながら彼がちらと窓の外を見やった。
 当然真っ暗で何も見えないが、最近はずっと雨続きなもので、
 今もしとしとと小雨ではあるものの雫が地面に落ちていることは聞いて取れる。

 ていうか天気も悪いのにかって。
 あなたが先に言ったんじゃないですか。



「大丈夫ですよ!
 沈み中の鳴海さんのために、この私が太陽を連れてきてあげますっ」

「それはそれは」

 そして笑う。

 苦笑みたいな笑い方。
 自分への嘲笑だったり、呆れた半笑いだったり、今みたいな苦笑だったり。

 一度はきれいに笑ってみてくださいってなもんですよ。





 でも

 私も私。


 できないことは言うなって、こういうことですか?
 そりゃ物理的に不可能は自分も相手も承知のはず。

 それでも言うのはどうしてでしょうか。


 その答えは自分でも笑ってしまうほど可愛くて無謀なものです。






 自分への不信
 やきもち
 「誰か」への愛情

 わだかまり




 暗闇の中でもがくあなたの目の前に
 どんな形でも手段でも

 光を持ってくる役目はいつだって私でありたいと思ってたりするから。














「…んじゃ、どこ行く」
「そうですねぇ。遊園地なんてどうですか」
「昨日まで雨だったんだぞ。 濡れてるだろ」
「こんな良い天気なんだから乾きますよ!」
「はいはい、感謝しますよ太陽連れてきてくれて」


 朝になれば雨はすっかり止んでいて、
 久しぶりの太陽がブラインドの隙間からいっぱいに溢れていた。




 家に居づらいとのことで部室を宿としてお貸ししましたよ。
 気晴らしに遊びに行きたいということで週末付き合いますよ。
 晴れていないと遊びに行けないということで太陽を連れてきましたよ。



 ねぇ、鳴海さん。










 暗い夜。
 自分への不信。
 自分への疑問。
 言葉。
 偽善。
 孤独。






 いてくれて。 一緒に。
 笑ってくれて。 どんな風でも。
 感謝してくれて。 頼ってくれて。
 いてくれて。



 いてくれて。










 暗闇の中でもがくあなたの目の前に
 どんな形でも手段でも

 光を持ってくる役目はいつだって私でありたいと思ってたりしましたけど。










 いつの間にか、
 私にとって あなたはこんなにまぶしいです。













   終








久々の鳴ひよ。
ひよのさんの一人称は本当に難しいです。半端なく。
でも男前鳴海さんへの手紙みたいな内容だとどうしても一人称でやりたいわけですよ。
最近弟くんに救われるひよのさんばっかだなぁ。好きなんです。

3周年企画でいただいたお題は「Let there be light」(ひよの関連)でした〜。
本当なら、ひよのさんが誰かに光を与えて救って〜
みたいなものかな(私が書くもののパターン的に) って思ったんですが。

ひよのさんに光をもらってる振りして実は照らしてあげてる弟くん、の図。
とにかくひよのさん一人称に苦しみましたが(どうしてこんなに難しいんだ…!)
すっごい楽しかったです、ありがとうございました(*´∇`*)


05/05/02


*閉じる*