下らないことを考えていた。
 それはもう、何も考えてなかったって方がましなくらいに下らないこと。

 実際は何も考えてなかったのかも知れない。
 よく分からない。

 これも全部、目の前のアホが下らないことを言って来たからだ。










                           小指












 ここからすべて繋がろう。









「鳴海さん、面白いおまじないかけてあげましょうか?」
「いらん」
「なっ…『どんなおまじないだいひよのちゃん?』とか言ってみましょうよまずは」
「いらん」
「………えぇと、このおまじないはですねぇ」
「勝手に解説を始めるな」
「赤い糸が見えるようになるおまじないですよ」
「はぁ?赤い糸?」
「ほーら鳴海さん、ノったぁ〜」
「…………」

 勝ち誇った顔がむかつく。
 ていうか何ともイカガワシイ。
 そして下らない。


「誰の小指も、自分と幸せになれる誰かと赤い糸で結ばれてるんですよ」
「アホか(薬指じゃないのか)」
「鳴海さん、自分が誰と繋がってるか気になりませんか〜?」
「ならないな」
「鳴海さん嘘つきましたね。 今嘘つきましたね」
「何で二回も言うんだよ」
「本当はすっごく気になってるくせに」
「あんたはどうしてこう一つの下らないネタを引っ張りたがるんだ」
「つべこべ言わずにおまじないかかってればいいんですよ!」

 焦れたように半ばヤケな様子で言い放つと、このアホはさっと俺の後ろに回る。
 そしてこっちが反応する間も与えず、後ろから両手で目を塞いできた。

「なっ、何す」
「ちちんぷいぷい〜鳴海さんの目よー赤い糸が見えるようにー」
「おいっ恥ずかしいからやめろ!恥ずかしいから!」
「なったらいいですね〜」

 なったらいいですねっておかしいだろ。
 という突っ込みを入れようかどうか迷ったが結局入れなかった。

 変に演技めいた口調でナゾの言葉を唱えた後は、ぱっと目が開放される。

「……」
「どうですか? 何か見えますか?」

 そう言ってにこにこと顔の高さに小指を持ってきた。

 当然 何も見えるはずがない。

「指が見える」
「……糸ですよ、糸!」
「アホか。見えるわけがない」
「えぇ〜それじゃあ私の指が誰とも繋がってないってことじゃないですか〜」

 物凄く不満そうに言われても困る。
 見えないものは見えない。


 こいつが将来誰かと 誰かと、繋がってたとしても
 俺には見えない。

 見えたって、・・・


「じゃあ鳴海さん、ご自分のは見えますか?」
「………」

 俺は観念し、律儀にも一度ちらと自分の指に目を落とし、それから首を振った。 もちろん横に。

「あちゃー。 それじゃあ私たち二人とも、
 運命の赤い糸が存在しないってことになるじゃないですか」
「そうだな。 残念だな」
「…………」


 この指に絡まってる(かもしれない)糸は。
 その先にどこの誰かに繋がってるかはどうでもいいけど。

 垂れ下がった糸はじゅうぶん過ぎるほどの長さを持って
 この部屋を出て この街を抜け
 遠い 見知らぬ誰かの指に繋がっているのか。

 どうでもいいけど。


 目の前のこいつの指に絡まってる(かもしれない)糸は。
 どれくらいの長さを持って
 この部屋を出て もしかするとこの街をも抜け
 遠い 見知らぬ誰かの指に繋がっているのか。

 その先に繋がる誰かは あくまで 「誰か」であって。



「残念ですか?鳴海さん」
「別に」
「またまたぁ。 がっかり来てる鳴海さんに私から良い報告です」
「あ?」

 相変わらずにこにこと言い放ち、このアホはぱっと俺の手を取った。
 そのまま何も言わずに右の小指を、自分の小指と絡める。

「仕方ないので私が繋がっていてあげましょう! 赤い糸が無い者同士!」
「これまた変な告白だな」
「………うるさいですよ」

 そう言って膨らませた頬が赤くなっている。







 ……あぁ、糸なんて要らないか。



 残念?
 いや、まさか。











   終








こんな甘い話になる予定では…
赤い糸が薬指だったか小指だったか途中で分からなくなってその葛藤が二人の会話に出てます(笑

3周年企画でいただいたお題「小指」(螺旋もの)でした〜。
どのカプで書こうか迷ったんですが最近鳴ひよブームなようです。
けっこーシリアスちっくになるかなとか思ってたんですが結局こんなですよ(笑)
ラブラブなものってあんまり書いてない気がするんですが 今回かなり気に入ったものが書けました。(あれ?言い方おかしい?)
素敵なお題ありがとうございました〜v


BGM「新人類の愛」 BY:Shinhwa


05/02/17


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