寂しさを何で埋めるかという話










          求めゆくままに











「ねぇカノンさん、どうして私なんですか」


 何度訊かれたかわからない質問。


 曖昧に笑って、導き出される答えは




「愛しいって思えるのはキミだけ、ってことじゃないの?」

 嘘も吐かなければ本当のことも言わない。


 それは言うほうも聞くほうも分かっていただろう。








 言葉はとっくに尽きたし
 理由も言い尽くしたし
 言い訳なんてもう浮かんでこないし








 この心と心を、
 この心と身体を、
 この心とあの心を、

 繋いでおく術なんてもう使い果たしてしまったように思っているから。







「どうしてそんなこと訊くの」
「なんとなく…好奇心ですね」


 冷たい壁に背中をつけ、覆い被さってくる身体を跳ね除けようともしない。



「言葉で確認しないと不安なの?」
「ご心配なく。 もしかして体だけが目的なんじゃ…!? なんて疑問は抱いてませんよ。
 あなたは確実に心を求めてると思いますから」
「自信たっぷりだね」
「違うんですか?」


 自分の正しさを確信しているかのような迷いのない笑み。
 それは憎らしいほどで、
 自分にも分かっていない本音すら、彼女には迷うことなく判別できてしまうのか、と不思議な気さえした。




 自分にも分からなかったから。
 柔らかくて少し温度の低い手、 それに触れて心が騒ぐわけを。
 それに触れて心が暖まるわけを。

 その手を離せないわけを。







 この眩しいまでの白い光を、黒い闇で覆うことができれば、
 その なんでもわかっている、すべて知り尽くしている、そんな
 確信で満ちた笑顔を少しでも曇らせることができたら。


 そんなことを考えていた。










 けれどこの光は汚れを知るどころか


 熱を与えるこの手に依存することもない。










 そうしていつか離れていくのだろうか。
 そうしていつか知れない場所でまた同じように笑うのだろうか。
 自分の存在なしにも。



「この手を離さずにいてくれるならキミでも良かった、それだけのことだよ」

「キミはこの手を絶対離さないでね、って必死でお願いしてるようにしか思えないんですが」




「誰が……っ」

「どうしたんですか? 泣きそうな顔して」






 笑った。
 正しさを盾持つ笑みではなく

 ただ優しい
 熱を持たない

 けれど暖かな。
















「カノンさん」
「…」

「大丈夫です」

「何が」


「あなたが心配していることです」
















 寂しさは消えることはないけれど
 手と手が届くまでの距離も消えることはないけれど









 繋いだ手の暖かさも消え去りはしない。








   終








拒絶されることが怖くて 最初からその気がないような振りをするけど、
求めるまま 感情が赴くまま
それをぶつけて大丈夫よ、求めゆくままに、

って話。



3周年企画でいただいたお題「求めゆくままに」(螺旋小説)でしたー。
最初はもっとえろい感じのものがいいかっても考えたんですがいつも当初の予定と変わるな…(汗)
その代わり糖度高し!私にしては。


04/11/08


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