いいじゃん単純で。













                            笑顔














 最初は、

 結崎ひよのという人間には全く無関心だった。



 そして今は。

 別に嫌いじゃない。
 全然嫌いじゃない。

 でも



 好きでもない。





 嫌いじゃないわけだから、いたら普通に「あ」って声出すし
 あっちも振り返って(ていうかあっちから見つけられることが多いんだけど)
 話しかけられたら普通に受け答えする。


 あいつの 笑顔も嫌いじゃない。

 はじめはただ能天気そうなだけの笑顔だとか思ってたんだけど
 まぁそれは完全にあたしの間違いだったわけだけど

 実は黒かったり
 心から明るいものだったり
 根拠がなくてもいやに自信満々の笑顔に励まされそうになったりすることもあったり

 むしろニヘラって笑いかけられるとこっちまで釣られて笑顔をつくってみたり
 そんなことを自然にやってのける。


 だからそう 全然嫌いじゃない。


 ばかじゃないのってくらいお人好しだったりするし
 かと言って基本的には容赦ないし
 裏表はあってないようなものというか
 でもなんだか見ていて気持ちがいい。

 何より
 自分の心のままに生きてる。
 周りを巻き込んだり 進んで巻き込まれたり
 それでもいつも何があっても幸せそうに
 むしろ
 「私は自分で幸せ掴んでます!いつも幸せです!!」
 と言わんばかりの笑顔を浮かべちゃってたり。


 うわぁ、言ってみると自分にないものばっかりだね。


 でもだからって、僻んだりはしない。あたしはそのテの人間ではない。
 だからむしろ結崎ひよののことは好きだったりするんだろう。果てしなく嫌いじゃないんだから。

 でも

 どうしても好きだといえないのは












「ぃよう嬢ちゃん。 腹減ってんだ、何かくれ」
「いきなり乞食ですか浅月さん」
「こ、乞食はねぇだろう…っ」










 最近よくこんな風景が目線の先で繰り広げられる。



 理緒も香介も ひよのも
 クラスは同じでこそないが、近い。

 そして客観的にみて分かるが、香介とひよのは相性がいいのか、よく一緒にいる。
 いて違和感がない。 ぎこちなさとかがない。
 まるでない。











「こんにちわ浅月さん。 先日のお礼にケーキ奢ってください♪」
「先日って」
「浅月さんの危うい出席をどうにかしてあげたじゃないですか〜」
「あぁ?散々サボリまくった教科でなんでか皆出席ついてたの嬢ちゃんがか!?」
「ホラホラ、お礼に奢ってくださいよ」
「……………」







 当たり前みたいな笑顔。
 んで、まんざらでもない笑顔。












 ……………あぁ、むかつく。














 むかつくんだよこれが。
 だからあいつは好きじゃないんだ。
 嫌いじゃないけど果てしなく好きでもないんだ。
 あぁ分かってるさガキっぽいやきもちだってのは分かってるさ。

 でも仕方ないじゃんむかつくんだもん。




 あんたには鳴海弟がいるだろ。
 鳴海弟じゃなくてもカノンでもラザフォードでも誰でもいるだろ。(この際相手方の選択権は無視する)
 そいつらと一緒にいりゃいいだろ。


 何も 無理に香介と一緒にいなくてもいいじゃないか。

 あぁ、楽しそうにすんな、くそ。


 むかつっく!






 そして通りすがりのふりをしていて見ていたあたしに気付き、
 香介が「よぅ」と手を上げる。
 んでもって一緒にいたひよのも笑って「こんにちわ」とぺこんと頭を下げた。

 その笑顔!勝ち誇ったよーな 笑 顔!あぁ思い込みだってのは分かってるとも。
 でもむかつく!
 と思いたいのについあの笑顔につられて笑ってしまう。
 あぁ むかつく!




「亮子…おまえ何イライラしてんだ?」
「べっつに!!」
「お〜怖。 多い日ですか」
「うるさい黙れ死ね」
 間髪入れずにどげし、と音を立てて蹴る。
 痛いはずだが笑ってやがる、マゾかお前は。むかつく!
 そして苦笑しながらひよのが話しかけてきた。
「カルシウム不足ですか亮子さん?」


 くそ、強者の余裕だ、負け犬の気遣いなんて。
 ってあたしは一体何に負けてるんだ。


「なんでもないっ!どうぞ仲良くお日柄良く!」


 特に意味はないが語呂だけで言葉を選んでみた。
 言い捨ててズカズカと離れる。

 背後で二人がヤレヤレと顔を見合わせて談笑を始めるのがわかる。
 あぁ、しまった。
 我ながら凄い広い歩幅で歩いちゃってるよ。このままだとすぐ遠く離れちゃうって。
 二人の会話が聞こえなくなるだろう!
 ってあたしは何を聞くつもりだ。


 あ〜〜もうむかつく。





 ひよのが嫌いなんじゃないんだってば。
 香介は……まぁノーコメントで



 もちろん香介は幼馴染だし 話したいし一緒にいたいわけだ。


 んで
 ひよのの周りに振りまく笑顔とか雰囲気は嫌いじゃない。
 話すこともあいつはアホじゃないし、物知りだから面白いだろう。
 ひよのは嫌いじゃない。
 だから話してみたいんだってば。


 要は二人が一緒にいるからダメなんだって。
 混ざって三人になったら?
 むしろ理緒も混ざって四人に?
 ついでに鳴海弟もカノンもラザフォードも加わって七人に?

 いや、そうじゃなくて。










 むかつくしストレス発散に部活行こう。
 そう決意してグラウンドに向かう。

 渡り廊下をノロノロ歩いている途中、スニーカーを教室に忘れたことに気付いて教室に引き返す。

 あー、またあの二人が一緒に話してるトコ見なきゃなんないじゃん!
 いやいっそ間に割って壊してしまえか?
 それは望ましくない名案だ。 あたしはそんな悪いコじゃない。
 ただのヤキモチ焼きのシャイガールだよあたしは。


 ごちゃごちゃ考えながら教室の前の廊下に着くと、そこにはひよのだけがいた。
 廊下の窓からグラウンドを見下ろしている。
 そしてあたしに気付いて、少し驚いた顔をした。

「あれっ、亮子さん部活に行ったんじゃないんですか?」

 亮子さんがいないか捜してたんですよ〜、とヘラっと笑う。
 ……いい奴だなぁ…。

「…ん、スニーカー忘れてね。教室に取りに来たとこ」

 嫌味なく笑いながらそうですかー、と言って
 またコロッと同じ笑顔なんだけどなんだか違う笑顔を浮かべて


「そういえば!さっきずっと浅月さんと話してたんですけど」



 見りゃわかるっつの。
 ……やな奴だなぁ…。



 嫌いじゃないんだよ。
 むしろ好きなんじゃないの?ってくらい嫌いじゃないんだよ。

 でも ただ…
 香介とお似合いのアンタが羨ましくて妬ましいんじゃい!
 とか言ってやれればどんなにスッキリするか。

 ちくしょう、決して嫌いでは



「何の話してたと思います?」

「…さぁ。 あたしが知るわけないだろ」



 嫌いでは





「ふふ。浅月さんていっつも亮子さんのことばっかり話すんですよ。
 ホントお似合いですよね、想い合ってる〜って感じで羨ましいですよ〜」


 笑顔。 笑顔笑顔。 幸せを呼ぶ幸せそうな笑顔。



「…へー……、 そう」




 あ、なんだ。





 大好き、この子。(^-^)












   終








すみません、たまにはこんなのもアリかなぁと(笑
ひよ亮の組み合わせって滅多にないからってか無きに等しいのでずっと書きたかったんです!

亮子さんは可愛い担当だと思うんですが、
ただ恋するオンナの子〜って感じじゃなく、私の書く浅月とはちょっと違った部類のアホにしてみました(笑
アホで可愛いを目指した…つもり☆
最初は物凄いシリアスの予定だったんですが……

亮子さん別人すぎて申し訳ない!
でもこんな感じじゃないの〜とかこっそり思って升(笑

3周年企画でいただいたお題「笑顔」(螺旋文)でした〜!
書いててすっごい楽しかったです、どうもありがとうございました(*´∇`*)


05/07/06


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