あるいは死への、










          残り香











 よく知っている存在ではない。
 だが全く知らないわけでもない。
 全く興味がないものでもないし
 完全に無視できるようなものでは決してなかった。



「なぁ、俺とお前、どっちが生きてるべきなん?
 未来に確実にそうなる言われてる俺と、今まで数えきれんくらい人殺してきたお前を並べて、
 俺の方が消えるべきって   どう思う?」



 火澄は笑みを浮かべながらそう言った。
 少し油断すれば分からないような、けれど確かな苦痛の意味を持つ笑み。

 カノンにとってそれは知らない痛みだった。
 分かりたくなかったというのが正しいかもしれない。


 痛みだけではなく、
 その意味や理由、存在する本質的なこと
 すべてが当たり前のように分からなかった。
 不可解、得体の知れない、けれど


 彼を目にすると言いようのない感情が身体中を巡り、全身の肌を粟立たせ
 警鐘のようなもの を発しながら走るのだけは確かで。




 隣で寄り添うようにしてこういった会話を交わすのは初めてではなく、
 むしろ毎日のように繰り返された。


 飽きることなく、火澄は不幸を見せつけた。


 命の価値や理由、意味、そんなものを秤にかけたり かけさせたり
 どういったものを望むのかは分からないが、答えのようなものを求めて常に問い縋った。



 その度にカノンはただ沈黙だけを守った。




 命の重さを測ることは馬鹿げていると知っていた。
 しかしそう言ったことを彼や自分達ブレードチルドレンのような者に当てはめて考える自体がおかしいような気がする。



 どれだけ絶えても底の見えないような気がする、そんな黒い絶望を火澄で知った。

 希望、自由、夢、願い、ガラスケースに詰めて眺めるだけで幸せになれそうな、そんな綺麗なものは音も無く破れ、飛び散った。




 決して縋ってなどいない、そんな瞳で火澄は命を請う。




 失って惜しいものなどないカノンにはそんなことは決してできない、と思った。
 けれど本当に失って惜しいものなどないのか、それは答えることもできなかった。



 火澄に対し向かっていく自分の頭から生まれる言葉は何を意味するだろう。




 ただ言葉を交わすだけでは 心は通わない
 ただ身体を重ねるだけでは 熱は共有できない
 ただ熱を交換するだけでは
 ただ時間を共有するだけでは



 その身体に自分の匂いを与え、或いは残すことなどできるはずがない。




 唇の感触は知らずとも、相手の体温と鼓動のはやさだけは知っているつもりで。




 安らぎの象徴とも言えるかもしれない、「同じもの」を探すけど。






 抱き締めても、
 火澄の身体から硝煙の匂いはしなくて。



 けれど 人の命を奪うことを知らないその身体に、確かに「残る」血のにおい。


 それだけが鼻腔から身体中に流れ込んできて

 その「同じもの」に 安らいで心を掻き毟る、 例えば今日も。





 








   終








え…ちょっとこれ…どういう……

「残り香」(螺旋小説)のお題でしたー。
残り香ってくらいだからやらしいくらいのが良いのかなーと思ったんですがまずキャラ選択ミスですか?キャハっ(…)
螺旋において残り香ってゆーとやらしいイメージに結び付けるんでなく血とか硝煙とかって感じだったので…
この二人になりました。
キスすっ飛ばして身体だけの関係ですが(黙れ) どちらが上かは表記してません。だって火カノ火!(…)

お題ありがとうございました。
明らかに書いた本人だけが楽しんだ内容で申し訳ありませ…


04/10/04


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