「私は月を照らす太陽がやりたいです」

 彼女はそう言った










          月光











 太陽の光はなくてはならないもので、
 あればぽかぽかと暖かくて、
 太陽の光熱で干したふとんはとても気持ちが良いもので、
 すべてに降り注ぐ恩恵の象徴。
 時々それを煩く思うこともあるけれど、
 それでも離れることはできない。


 そんな太陽が良い。
 眩しすぎてとても見上げることはできないのが寂しいけれど。
 誰もが皆、存在を分かってくれているというのは嬉しい。
 あって当たり前だから 意識してもらえることがないというのが 寂しいけれど。





 そう言って 笑った彼女の声が
 耳の奥に溶け込まずに ガラスを引っ掻いたみたいな音を立てた





「―――そうだね、ひよのさんはみんなを救いたい、みんなを照らしたいって考えるからね」

 皮肉を吐いた。


 たぶん気付いたと思う。





 カノンの言葉にひよのは一瞬きょとんと目を丸くした。
 その次に小さく息を吐いて 肩を竦めて。



「一番は、ただ一人が輝くためのお手伝いがしたいです」







 冷たく暗い星

 闇に紛れるように孤独に佇む、
 陽の光を全面に受けて
 その光を自分のものに変えて輝き
 そらを超えて この地上を光で包む





 そんな








「私は月を照らす太陽がやりたいです」







 そう言って笑った

 彼女の声が静かに身体中に染み込んでいった









「…歩君のこと?」
 笑って尋ねるカノンに、ひよのは意外だとでもいうような顔で言った。

「?鳴海さんは自分で輝きますよ」











 暗くて冷たい場所で
 一人でうずくまる者に手を差し伸べるような








 光を、











 自分の力で










 そう 自分自身の力で。





「寂しいでしょ」


「はい」




 苦笑しながらかけるカノンの問いに、ひよのは

 心から寂しそうに 笑って
 心から誇らしげに 頷いて、




 碧の混ざった明るい茶色の瞳で
 カノンをじっと見つめていた。











 希望など無いと吐き出して
 痛みと絶望の中叫んで
 信じられるものなど無いと
 血に塗れた手で 救いの手を必死に拒んで


 そうしていたカノンが





 紛れもない
 疑いようもない








 『希望を』









 月が太陽の光を受けるのは


 「月」がその言葉を口にし 微笑むのは


 月がすべての光を受け入れそして




 照らしたいもの を確かな光で包み込みはじめるのは、














 それから間もなくのこと。

























 「私は月を照らす太陽がやりたいです」

 彼女はそう言った















   終








カノンの光を受けて弟君が光を放ち始めるといい。

いつもひよのさんに見ていた光と同じ もしかしたらそれ以上のものを、カノンも持っていたことに感動。


いただいたお題「月光」(カノひよ小説)でしたー。
月光だからクラシックに暗めのシリアスにしようかと思ったんだけど、珍しく壁紙自分で作ったらこんなイメージになっちゃった(>_<)
なんだかなんだ言って、ラブラブという意味でなく ひかれ合って共鳴するカノひよが大好きです。 素敵なお題ありがとうございましたー!!ご希望に沿えていることを祈るばかりです…(吐血)


『誰かが誰かをいつも支えてるように あの月でさえ 太陽の光で輝いてる
 宇宙の法則の中ではみんな ひとりじゃない』
【LINDBERG】


04/10/16


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