少しずつでいい。
 少しずつがいい。

 少しずつ少しずつ 近づくことで
 この目が君を映す時間が少しでも長くなるなら。












          アルエ












 物理的な距離が近づけば近づくほど、
 精神的な距離は伸びて行く。

 いつまでも 触れられないって思う。

 肌に
 その頬に この手が触れても

 一番触れたい場所には触れていない。
 分かるって言うか そう思い込んでる。



 多くを求めすぎか?










「…お前、また殴られたのか?」

 驚きと怒りが入り混じって呆れに変わった。
 生まれたのはため息。

「……」


 ラザフォードは何も言わずにただこっくりと頷く。
 赤く腫れ上がった右頬が痛々しい。

 よくこのキレエな顔を殴る気になるもんだ。
 …いや、だからこそ かもな。


「殴られた理由は知ってるか?」
「いや」
「殴った奴 殴り返してやったか?」
「いや」
「ほっぺた痛くないか?」
「…痛い」


 無表情に、それでも首をゆっくりと縦に振ったり横に振ったりしながら肯定・否定を返す。
 なかなか面白いが疲れる。






 なんだコイツは。
 あほか。



 それがコイツに初めて逢ったときの第一印象だった。
 編入してきてすぐにこいつが電波系であることは分かった。
 だが分かったのはそれだけだ。

 無表情で無愛想で無感動。今流行りの「三無主義」ってやつか。

 当然と言っちゃ悪いけど、瞬く間にクラスでは浮いた存在に。
 女みたいに細くてなまっちろい身体で顔も睫毛も長いし女みたいで。
 どこを見てんのかまるで分からない顔は表情ってもんを知らないし。
 そりゃあ浮くわな、って感じで。

 でもなぜか俺はこいつに構うようになったわけだが。





 んでまぁそれはともかく。
 ラザフォードは何人かの男子に目をつけられたりして影で殴られたりもしているようで。
 俺はなんつーかそれについて特にどうこうする気はないし、かといって当の本人もなんとも感じていないかのようだ。
 そんなんだから殴る方も張り合いがないからすぐに止めるだろうから、まぁ反応としては正しいのかもな。
 だけど。




「お前、それでいいのか?」
「…さぁ」



 俺はこいつが分からなかった。
 分からないから気持ち悪くて 面白いが少し怖くもあって
 だから嫌いで

 だから理解したくて
 だから好きだった。


 俺だって普段あんまテンション高いわけでも何かと色々考えるわけじゃないけど。
 こいつは不思議と俺の感情の発生源。




「正当な理由もなく殴られっぱなしでよー。
 恥ずかしくね?」

「…別に」



 だから
 好きだが

 当然 むかつくことも多い。
 なんせ 理解できないヤツだから。





「あー…なんかお前って本当わっかんね。
 男らしくなさ過ぎてうざくなっちまうっつの」




 無感情で無表情なヤツだから。
 自然と出しちまう言葉の棘も鋭くなっちまう。

 何考えてんだこいつは。




「イヤなことはイヤって言える?お前」
「…本当に嫌なことなら言う」

「……殴られるのって嫌じゃね?フツー」


 何考えてんだこいつは。
 ちょっとアブナイ奴だったりするのか?



 あぁもう。
 一緒にいる時間も増えて、
 距離が近づく度に遠くなる。


 お前のコト考える度に疑問符が多いよ、俺。

 いいのか? 疲れっちまうよ、俺?



 赤く腫れた頬に手を伸ばすと、大人しく目を閉じる。
 肩に手を回すと素直に体重を持ってこられる。まぁ凄ぇ軽いけど。

 俺も目を閉じ、肩を寄せ合ったまましばらく沈黙が続く。




「……あんまワケわかんねぇと、…」




 意味分からないと。
 何も言ってくれないと。
 反応してくれないと。
 望んでくれないと。
 求めてくれないと。




 俺は気が短いから。









 冗談でも声のトーンは低めで言ってみる。
 そんなコトできないのは(とりあえず今は) 自分が一番よく知ってる。










「嫌いになっちまうよー」




「嫌だ」


「…ぶっ」






 何?
 これは反応返してくれんの?
 驚いて噴出しちゃったよオイ。




 本当に嫌なら言うんだっけ?



 どんな顔して言ってんのか気になって目を開けて隣の奴を見たら。
 うっすらと。
 俺にしか分からないくらいうっすらと ほくそ笑んでやがった。




「…お前むっかつくなぁ」
「………」





 あぁ、もう返してこないのね。

 とりあえず遠のいてるだけじゃないんだな。
 相変わらず全く分かんねー奴だけど。
 それと距離は別物ってことで。



 少しずつ 少しずつ、
 その心を 俺が絆していけりゃぁいいな。













   終








ぐはー(吐血)
甘い…凄く甘い…ッ!!
まぁ普通に学園もの、って感じで。
シリーズもので行こうかとずっと思ってたやつです。
パロを単品でやるってのは実に難しい…

いただいたお題は「アルエ」(螺旋文)でしたー。
ふふふ香ラザでいくとは誰も思うまい(笑)
アルエといえば綾波レイ(笑)ってことでラザ受けでいこうと。(?)
楽しかったです!素敵なお題ありがとうございました〜v

BGM「アルエ」BY:BUMP OF CHICKEN


05/04/10


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