いつものように放課後、新聞部室のドアを開けようと手を掛けたら。
 よく知った 二人分の声が聞こえてきた。


「それで 火澄さんはどうなんですか?」
「別にー。俺は一人でも平気やし」


 立ち聞きする趣味はないし。
 なんとなく雰囲気的に部屋の中に入ってはいけないような気がした。

 だからすぐに立ち去ろうとしたんだけど。




「おさげさんは? 寂しいから歩と一緒におるん?」





 一瞬にして その場に足が凍り付いてしまった。











          I've been alone all along












「私は寂しくないですよ。 一人でも平気です」

 腰に手を当てて、つんと澄まし顔で言う様子が目に浮かぶ。

「友達少なそうやしな」
「うるさいですよ」
「で、歩は?」
「なんで鳴海さんが出てくるんですか」
「なんで一緒におるんかなぁ〜て。 いつもいつも」
「なんでって言われても答えられませんよ。 理由なんてありませんから…」
「ほんまに?」
「えぇ、ホントに」
「じゃあ 俺と一緒にいてー言うたら聞き届けてくれるん?」
「はぁ?」


 『はぁ?』
 まったくだ。
 何言い出しやがる。




 立ち去ろうという気が全く失せてしまい、
 ドアに背を預けてその場に座り込んでしまう。

 ドアの向こう。
 沈黙。
 聞こえるのは自分の心臓の音。


 焦っている?
 いや、焦っていない。



「歩と一緒にいるときくらい俺と一緒にいて、
 歩に気ィ掛けてるんと同じくらい俺に気ィ掛けてー てコト」
「なんでですか」
「そんなん なんで言われても答えられへんわ。 理由なんてあらへんし」
「………」


 そしてまた 沈黙。


 なんとか言ったらどうなんだ、とドアをはたいてやりたいがそれは出来ない。



 二人とも うまいこと言って逃げている。
 ということだけ感じ取った。

 歯痒いというか 何というか。





「火澄さん、寂しいんですか?」
「なんで?」
「寂しいから そんなこと言うんですか?」
「うん、寂しい。 …って・言うたら?」
「…まぁ、 ふーん、寂しいんですかぁ〜 くらいですけど」
「うっわ。 ヒドー」

 そう言って笑う声。
 苦笑か。

 向かうアイツも笑ってるんだろう。
 たぶん 苦笑いで。





「人間、ある意味みんな一人じゃないですか。
 だから「さみしい」って理由で誰かの隣にいたかったり、
 常に心の中に誰かの存在を置いておきたいと思うのは当たり前だと思うんですよ」

「ん?」

「その意味では、私は火澄さんとはダメです」

「……」


 なぜか。
 そんな言葉が交わされているのに
 突き放す言葉だとは思えないほど その場の空気が柔らかくなった気がする。


「誰も信じてなくて、常に自分は独りで、
 心の中に誰もいないだけじゃない。
 誰の心の中にも自分はいない。
 そんな意味で一人だと思っている私は、同じような火澄さんとじゃ
 埋まらないんです。
 かえって 孤独を感じてしまうんですよ」

「…………あぁ、」


 長い沈黙の後、 それはわかる。 と小さく息を吐き出すように火澄が付け加えた。




 一人でも生きて行けないわけはない。

 平気なわけではないけれど。
 でも
 平気じゃなくても生きては行ける。




 そういうことなんだろう。

 ただ
 「さみしい」という言葉一つ自分の心の声としては言葉にできず
 ただ「孤独を感じる」とだけ言った彼女は
 凄く彼女らしいと思った。





「鳴海さんの傍は、そんなもの 感じる暇もないんですよ。
 彼ウジウジしててそれにイライラするのにいっぱいいっぱいです」

 えへへ、と笑う声。

「あぁ、それは言えるな!」

 ははは、と笑う声。


 なんだ。

 もう笑ってるのか。






 一つ嘆息すると、ずるずると立ち上がって
 躊躇いもなくドアを開けた。


 見知った二つの笑顔が少し驚いたような顔で迎える。



 外観的には三人。

 でも。



 こいつらが こいつらの中で何人でいるのか。
 俺はたぶん その答えや真実を知っている。












   終








やってみたかった、火澄とひよひよの話を弟君の一人称で。
テーマは「出歯亀」(爆)

けっこう暗い感じにする予定だったんですが、なんか火澄とひよひよの二人だとあんまり暗〜くしたくないんですよね。
白くてぽかーんとした「シリアス…?」てな感じのが好み。

3周年企画でいただいたお題「I've been alone all along」(螺旋文)でしたー。
書いてて凄い楽しかったです!素敵なお題ありがとうございましたv


BGM「空のつくりかた」BY:ヤイコ


05/02/25


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