言われなくとも既に私は。











S.O.Y.C.H.












「理緒」


 一回目。



「理緒」



 二回目。




「…理緒、」



 三回目は、少し語気を強めて。
 するとようやく声が届いたのか、理緒はくるりと振り向いて首を傾げた。


「ん?なに、カノンくん?」


「………」



 無視をされているわけでも、からかわれているわけでもない。
 でも、こんなことが これで何回目か。

 カノンは眉根を寄せた。



「理緒、また 耳…悪くなってるだろ?」

「……」


 理緒は肯定とも否定ともつかない表情で押し黙って。




 自分達ブレード・チルドレンが扱う銃器は、激音を伴う。
 特に理緒が得意として使う爆弾は、銃よりも遥かに大きな音で鼓膜を攻撃してくる。

 最近では耳鳴りが止まない状態で。
 少しずつ周りの音が遠くなりつつあるし、普段から人の声や物音を聞き落とすことも多くなっていた。
 じわじわと取り返しのつかない状態に近づいているようで、薄々恐怖を感じていたのだけど。

 自分以外の人間、 カノンにまで気付かれているとは思わなかった。




「病院、行ったほうがいいよ」

 …前も言ったけど。
 付け足しながらカノンが苦笑する。







「僕の声が聞こえなくなったら嫌だよ」






「!あはは、そんな…」
 思いの外素直に困った顔でそう言ったカノンに、理緒が思わず噴き出した。

 しかし次の続けられたカノンの言葉に見事絶句を強いられることになる。











「僕以外の人間の声は聞こえなくなってもいいんだけどね」




「――――――」








 膜が掛かったような声。


 音に鼓膜が振動する度に起こる耳鳴り。




 今度は?





 体内で煩く響く胸の鼓動。








『カノン以外の人間の声は聞こえない』







 あぁ、悪くない提案だな、
 なんて考えてしまう自分に大いに苦笑してしまった、そんな日。














 終









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爆裂ロリータだし一度はやってみたかったネタ。  なぁーんてありがち?


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