それだけ な 話。











     +リズム+










 カノンくんと居るときの あたしの眉は釣り上がっていることが多い。
 だってあの余裕が気に食わない。

 いつだって あたしから20センチ…? 以上高い目線で見下ろしてくる。
 それも、優しい目で。
 外なんかだったりするとカノンくんが日除けになったりするくらいだ。
 見上げようとすると逆光で眩しいったらないし。
 そんな様子を見ると、カノンくんは意地の悪い笑みを浮かべて頭を撫でてくるのだ。


 あぁ気に食わない。
 別に背のせいじゃない。 カノンくんのせいだ。
 あの余裕が気に食わない。

 華奢だけど大きい手で触れられたり、けっこー整った顔で見つめられたりするとあたしの心臓は穏やかではいられなくなる。
 それを分かっててか 余裕綽々の顔でこれまた歯が浮くような台詞を言ってくるのだ。


 あぁ気に食わない。




 そんなこんなで
 カノンくんなんて大っ嫌い! なんて言葉を繰り返す日々。

 まさか

 本気に受け取ってるわけはない とは  思うけど。






   なんであんなに余裕なんだろうと思った。
 どーしていつもあんな見た目だけじゃなく精神的に上位っぽい顔して。
 頭撫でるの止めてよとか言いたいんだけど あの手が好きだからそれも言えずそれでまたむかつく。


 でもある日。
 いつものように 何度目かの「スキ」と「キライ」を交わしたとき
 不意に抱き締められた。

 腕でカノンくんの胸を突っ張ってみたけどあたしの身体はすぐにカノンくんの両腕に収まってしまった。
 ぼっと顔に血が上るのが分かる。 頭のとこでははっと笑うのが分かった。

 あー、どうしてそんな余裕なんデスか カノンくんは。
 思いっきり不満を浮かべた顔でいると、カノンくんが一層ぎゅうと腕に力を込めてきた。

「ーっ、」

 こんなに密着すると心臓の音が伝わってしまう。
 また余裕ぶって笑われてしまう。 あーそれは非常に気に食わない。

 でも次の瞬間。


「――………」

 安心して笑ってしまった。
 安心するとこちらからも 背中に腕を回せる。


 だって聞こえたから。
 びっくりするくらい嬉しかった。



 聞こえてきたカノンくんの心臓の音が
 あたしのと同じくらい、早かった。




 気持ちは同じかは知れないけれど
 同じリズムで傍を生きているんだなあと 思った。

















 終









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砂吐いて死ぬ覚悟はできておりますとも。(倒)


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