幸せ、かな。
+チェルシー+
「………」
「〜♪」
横ではひよのがご機嫌よろしく鼻歌を唄っていて。
とても良い天気で、最高の散歩日和。
やってられるかとばかりに授業を抜け出した歩だが、すぐにこの新聞部長に発見されてしまったのだ。
「………」
「どうしたんですか?鳴海さん。さっきからずっと黙りこんで……」
こんな気持ち良いお散歩天気(?)ですのに。
不思議そうに歩の顔をひよのが覗き込む。
「…俺は一人で散歩すんのがいいんだ」
「まぁたそんな心にもないこと言って〜」
「…っ」
からからと笑うひよのに、歩が言葉をなくして項垂れる。
観念したように歩き出した歩を見て、ひよのが満足そうに笑い、再度鼻歌を歌い始めた。
「…………」
ふと上を仰ぐと、巨大な校舎の隙間から真っ青な空が見えて。
窮屈そうなそれから、燦々とした心地良い光が降りてくる。
恐ろしいほどに静かで、穏やかな時間。
何も無くて、 故に、
ここに総てがある ような、
そんな気がするのは
「鳴海さん、手を繋ぎましょう!」
「………はあ?」
突然のひよのの提案に、歩が間の抜けた声を出す。
「何言ってんだ、急に…」
しかしひよのは、さもグッドアイディア!と言わんばかりに満面の笑顔を浮かべて。
「ほら、歌にあるじゃないですか。 〜♪幸せなら手をつなごう〜♪みたいな!」
「…………」
―――幸せなら手を叩こう、だ。
そう突っ込もうとしたが、ひよのが笑顔で手を差し出してくる様子を見て、歩が口を閉じる。
「はい鳴海さん、手を繋ぎましょう!! 私たちこんなに幸せなんですから!」
「俺の幸せまで決め付けるなよ…」
「あれ?鳴海さん、幸せじゃないんですか!?」
「………………」
歌詞を訂正してやれば、ひよのは差し出した手を降ろすだろうか。
全然幸せじゃないと突っぱねれば、ひよのは差し出した手を降ろすだろうか。
ふぅ、と小さく嘆息して、
答える代わりに。
歩は渋々と、
あくまで渋々と。
差し出された小さな手に、それより少し大きな自分の手を重ねた。
終
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