安心した。
これは皮肉だよ。
『すごく、安心 した。』
+光群コヨーテ+
「どうして、本来他人であるはずの皆を励ましたりするの?」
「うーん…別に、これといった理由は。しいて言えば私自身のためですよ」
当たり前のように構築される言葉。
それを発するあなたの心は、いったいどれほどまでに綺麗で 透明で 眩しい光を放っているんだろう。
「自分自身のため?『情けは人のためならず』って?」
「ん〜…そういうことになりますかねー」
ことわざまで知ってらっしゃるんですか?とひよのがおかしそうに笑う。
「じゃあ、キミはいつか自分を励ましてもらえるように…助けてもらえるように、他の人を励ましたり助けたりするの?」
「あ、そういうわけじゃないと思いますよ。見返りを期待したことはないです」
「そんなのありえないよ」
「と、言われましても」
「どうしたんですか?カノンさん。やけにこだわりますねー…」
「確かめて、安心したいんだ」
人間は、自分には計り知れないものに、恐怖にすら似た不安を覚えるもので。
だからちゃんと確認して把握しておきたいから。
自分とは…『自分達』とはほど遠い、この目の前の
光のような 生きものを。
いつも、いつも。
如雨露で花に水を注ぐように、
言葉をかけてやる。
枯れる草にも、崩れた瓦礫にも、汚れた土にも、絶望して朽ちた人間にも。
すべてに惜しみなく、光を浴びせてやるような
そんな生き方。
あなたの心は、その底で一体どれほどの
綺麗で 透明で 眩しい
光を…
「キミは、例えば人が運命に打ち負けて地に膝を着けることを。どう思う?」
「悪いとは思いませんよ。負けることは、立ち向かわなければ出来ないことです。それなら、そこに意味があると思いますから」
「今までも、歩君や理緒達に、そう伝えて励ましてきたんだろ?」
「その場で思ったことは、伝えてきましたね…結局自分を奮い立たせるのは自分自身ですから。私が励ましてこれたかどうかは分かりません」
そうだと嬉しいんですけどね、とひよのが寂しそうに微笑って言う。
「じゃあ、『そう思っている』キミが地に足を着けないのはどうしてだい?」
何かを確信しているように、カノンが顔に笑みを浮かべて尋ねる。
ひよのは少し沈黙し、俯いて、やがて顔を上げて、カノンのように笑って。
「無様ですから」
カノンは、どこか満足したように笑って。
「あはは、良かった」
「?何がですか?」
「やっぱり、キミも………」
よかった。
自分が見ていたのは、ただの虚像のヒカリでしかなかった。
――――――すごく、安心した。
そう言って。
カノンが浮かべる笑顔は 絶望の。
終
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