一番畏れるのは、
 あなたを許してしまう自分自身。






  +ル+






「最初は、ものすご〜く冷たい・・・というか、残酷な方だと思ってたんですが」

「・・・何の話だ?」
 腕を組んで、神妙な顔で言うひよのに、浅月が首を傾げる。


「浅月さんのことですよ」
 浅月の言葉に、ひよのは人差し指を立てながら述べる。

「人を殺すことを何とも思わない、むしろ楽しんでやってる・・・って感じしてたんですけどね」
 歩と接触する際に、不必要なほどに派手に、残酷にやらかした殺人。
 それを思い出しているのか、ひよのがおかしいなぁ、とでも言いたげな顔で。


「・・・嬢ちゃん、何が言いたいんだ?」
 嘆息混じりに問う浅月に、ひよのがにっこりと笑顔を向けた。

「だから、その頃に比べて。浅月さんってすっごく丸くなりましたよね〜、って」
「はぁ?」
 いきなり何を言い出すかと思えば。
 半眼で何かを訴える浅月に、ひよのは変わらずににこにこ顔で。




 以前はもっと。


 誰のチカラもいらない、誰の傍にも寄り添わない、そんな感じで。

 何かを必死に拒んでいるような、反発しているような そんな
 ぎらぎらとした殺気を放っていたのに。


「理緒さんや、特に亮子さん。お仲間の皆さんをすごく大事になさってる感じが、いい感じです」
 そう言って、笑う。
 どこか嬉しそうに。

 浅月は驚いたように目を丸くしてひよのを見ていたが、やがて複雑な表情で天井に目をやった。
 そして溜め息をひとつ漏らして、ためらいがちに言う。


「せっかくいる仲間なんだ。大事にしてーじゃねぇか」


 浅月の言葉に、今度はひよのが目を見開いて、そしてすぐその顔を笑顔に戻す。
 とても嬉しそうに、けれど
 なぜか 少しだけ哀しそうに笑って。



「浅月さん、あなた達は、カノンさんを殺さずに止めるだけだ、と仰いましたよね?」
「・・・あぁ」

 元々は、共に運命を呪い、それでも絶望を受け入れきれずに、必死で抵抗してきた仲間。
 だから、殺すことなんてしたくなくて。

 少なくとも、彼と最も近い場所にいた人間が、諦めない限りは。




「それでは、亮子さんや理緒さんがカノンさんに殺されてしまったら、あなたはどうするんですか?」


「!」
 何の感情も感じられないひよのの声に、浅月が目を見開く。


「自分達と無関係の人間なら、あなたは簡単に殺せると思います。・・・でも、私は・・・浅月さんは決して、自分の仲間を殺すことのできる方ではないと思うんですよ」


「・・・・・・・・・・・・・・・」
「大事な仲間を殺されておきながら、そのカノンさんを殺すことができないなんてことは・・・?」


 本当は、それがすごく不安で。
 奪われるだけ奪われておいて、自分は何もできずにいた なんて


 そんな哀しすぎることが 起きないか不安で。



 悲痛な表情で問うひよのに、浅月がふ、と小さく息を漏らしたように笑った。

「何言ってんだ嬢ちゃん?いくら仲間・元仲間が大事っつっても、モノにはランクがあるだろ、優先順位ってもんがよ」


 何が一番大事か、なんて判断する力、自分にはないから。

 あるものをすべて守るだけの力も、ないから。

 今この手に掴めるものから守っていくことしかできないから。




「そうですか・・・」

 遠くを見るような表情で、ぽつりとそれだけ言う。
 そのまま黙ってしまったひよのに、浅月が不思議そうな表情で問う。


「そういう嬢ちゃんはどうなんだよ?もし鳴海弟あたりが殺されちまったら・・・その相手を殺すことなんてできんのか?」



 浅月の言葉に、ひよのは何も答えず、ただ笑顔だけを浮かべて。

 その何も語らずに、すべてを語っているような そんな笑顔を見て、浅月はなぜか背筋に寒気が走るのを感じた。








「あなた達の誰が死んでしまっても哀しすぎですよ」

「!・・・なんだよ、急に」
 ずっと黙っていたひよのが不意に放った言葉に、浅月が驚いてひよのを見やる。
「皆さんに、優先順位なんてありません。誰なら死んでも良いとか、誰だけは死なないで欲しいとか、そんなこと少しもありません。皆さんに同じように生きていて欲しいです」

 この世の中は、すべてが不平等なことばかりで。

 幸せだって、命だって、自由だって、決して平等には与えられていなくて。

 助かる人間もいれば 助からない人間も 必ずいて。


 だからこんなことを願うのはエゴだと 分かっているけれど。



 せめて。




「誰かが死んでしまうまでは、願わせてください」




 誰も死なずに 殺さずに 殺されもせずに。



 それぞれの幸せを 求めることができるように。





 浅月は、眩しいものを見るように目を細めて。
「・・・嬢ちゃんはどうしていつもそう・・・俺らなんかの為にそこまで考えてくれんだ?」



 浅月の言葉に、ひよのは困ったように笑い、



「大事なものを失いたくないと思うのは、自然なことだと思います」





 そう言って、再びにこりと笑顔を向けると、「絶対に死なないでくださいね」という言葉を残し、ひよのは部屋を後にした。











「・・・・・・・・・・・・・・・」
 考えることは、色々あるけれど。

 とりあえず、









 大事だと 言ってくれてありがとう。










 だから






「・・・・・・悪いな、嬢ちゃん」



 何が一番大事か、なんて判断する力、自分にはなくて。

 あるものをすべて守るだけの力も、なくて。

 今この手に掴めるものから守っていくことしかできない。




 けれど、

 だからこそ。



 せめて、手に掴めたものだけは、何としても守りたいから。







 一番欲しいのは、自分の命なんかじゃなくて

 何かを 大事なものを守り通せる力のある自分だから。










「刺し違えてでも、って決めたんだよ」











 どこか吹っ切れたような笑みを浮かべ、浅月は小さく息を吐いた。


 眩しい光を、瞼の裏に閉ざして。





















 終







++++++++++++++++++++++++++++++++++++++  私的に、「ピティフル・クリア(理緒)」「ユミルの眠り(亮子)」「マム・ベイン(アイズ)」「陽。(カノン)」そしてこの「叉惨キャロル(浅月)」はセットな感じなのです。
 ブレチルそれぞれの想い(すべてひよ絡み)、みたいな。



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