「愛してるよ」?
 軽率だね。






  +ライク・ア・チェリー+






 花に人を例えてるのはロマンチストだけじゃない。



 あなたは向日葵。
 誰にも汚されずに、ただまっすぐに天を見上げて大きく笑っている。


 わたしは鈴蘭。
 白く儚い身に甘い香りを宿して、隠しているのは猛毒。





 つまり

 そう言った 一種の
 不幸自慢。
















 何気なく始めた、自分たちの周りの人間を花に例えていくこと。

「鳴海さんは・・・うーん、難しいですねぇ」
 ひよのがそう言って腕組みする。
「そうだね、大輪か、常緑樹か・・・・・・」
 そんなひよのの横で、カノンも宙を見つめながら歩を花に当てはめる。

「雑草関係じゃないですね・・・、鳴海さんは」
「雑草魂ってやつがないんだね」
「・・・表現はともかく、そうですね」

 神妙な顔で頷くひよのに、楽しそうにカノンが続ける。
「それを言うなら僕らだって雑草にはなれないな。キミだけだよ、雑草の見込みがあるのは」



 一人で歩けないほど無力じゃない。

 誰かの管理下でなければ生きられないほど不自由でもない。




 真冬のひび割れた地面に孤独であっても きみなら。









「・・・・・・雑草の見込みなんて言われても嬉しくないんですけど」
 そう言って頬を膨らませるひよのに、カノンが声を立てて笑って。



「あ・・・!」
 急に吹いた風。
 それに乗せられて辺りに舞い散ったのは、
「桜だ」
「わぁ、風流ですねぇ」

 なびく髪を抑えながら、ひよのが目を細めて桜の木を見上げる。


 満開、とまではいかないけれど、きれいに咲き揃った桜が、風が吹くたびにはらはらと地面に落ちていく。

 その様子をしばらくぼんやりと二人して見つめていたが、やがてひよのがぽつりと口を開いた。








「皆さんは、桜のようですね・・・・・・」




「え?」




 その言葉に、カノンがきょとん、と目を丸くする。
「カノンさんにアイズさん、理緒さんに浅月さんに亮子さん。皆さんは桜のようです」




 そう言うひよのの顔はとても無表情で、
 少しだけ哀しみを帯びているようにも見えて。


 カノンは首を傾げながら、困ったように小さく笑った。
「僕たちが?表現がきれいすぎるよ」




 その言葉にひよのは何も答えず、彼女もまた困ったように、寂しげな笑みを浮かべていた。


























「・・・どうしてキミがああ言ったのか、今ならわかる気がするよ」




 静寂が支配した学園校舎。




 痛みで痺れていく腕をぎゅっと握りながら、カノンが小さく微笑った。










 いつも誰かと一緒で。
 仲間と隣り合わせで生まれ、咲き、生きて。














 けれど その命が潰えるときは。




 死ぬときは







 みな 孤独で散って行く。


















『皆さんは、桜のようですね』


















「可哀想だ、って。そう続けたかったかい?ひよのさん」












 黒く重い銃身を握り締めて。

 大きく息を吸い、カノンは再び歩き始めた。




















 終










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