どうしてあなたは笑うの?

 私は、―――――






  +廃墟のソファ+






 いつもと同じような新聞部の風景。

 いつもと同じように、ひよのと長机を隔てて雑誌を読んでいた歩が、ふと顔を上げた。

 前を見ると、そこには何やら編集作業をしているのか、ノートパソコンに向かって忙しなくキーを叩いているひよのがいて。



 そのひよのを何気なく見つめ、歩は視線を雑誌に戻し、今度は天井に向け、そのまま天井に話し掛けるように口を開いた。


「なぁ」


「なんでしょう?」


 いつもと同じように。
 すぐにひよのがにこりと言葉を返す。
 歩が天井から視線をひよのに持ってくると、ひよのは「?」もう一度首を傾げ、にこりと笑むとパソコンの画面に目を向けた。

 そんな様子を見、歩が続けて聞いた。



「俺が死んだら、あんたはどうなる?」



 べしゃ。
 その質問に、ひよのが思わず画面に顔をぶつける。

「な・・・鳴海さん・・・・・・?」




 質問の主旨が理解できない、といった風に、ぶつけた鼻を擦りながらひよのが問い返す。




「だから、俺がいなくなれば、あんたはどうなるんだ?」


 もう一度。無表情だがどこか真剣に、歩が問う。

















 相手の存在。
 それがどれほどまでに大きいのかはわからないけれど、
 その人がいなくなれば 確実に自分は自分でなくなって。


 今までや これからの生きる希望 それがなくなってしまうわけで。

 それなら


 相手はどうだろう。


 自分がいなくなったくらいで狂ってくれるだろうか。



 泣いてその影にいつまでも縋り付いてくれるだろうか。



















 ひよのはしばらく呆然と歩を見つめた後、やがてあろうことか噴出して笑い出した。



「!何がおかしい」

「だって・・・鳴海さんがおかしいこと仰るから・・・」




 やがてひとしきり笑った後、ひよのがふっと小さく微笑い、呟くように言った。





「鳴海さんがいなくなられて、私が泣かなければ不公平だって、言いたいんでしょう?」









 知っている。
 私がいなくなれば、あなたがどんなに泣くか。

 見ないでもわかるけれど。


 その逆が あなたには想像つかないだろうから。












「なんか・・・ちょっと気づかないうちに随分素直に・・・いえ、エゴイストになりましたね?鳴海さん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」









 笑顔でそう言うひよのから、歩は少し不機嫌そうに目を逸らして。





「大丈夫ですよ。鳴海さんがいないとき私が泣いてるかはともかく、鳴海さんがいるとき、私がどんなに笑ってるか分かるでしょう?」


「・・・・・・・・・・・・」





 歩はひよのを見やり、眉を寄せると盛大に嘆息した。



 心の中は澄み切った青空のように曇りが解けていたけれど。











 目の前の相手に絶対敵わないことを確信した、そんな一日。






















 どうしてあなたはなぜ笑えるの?




 私は、あなたの笑顔が見たいから、 きっと。



















 fin







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