きれいだね。
 潰したいくらいに。






  +背徳エリスエル+






「僕達は、生まれた時から終わってるんだ」

 少し困ったように笑って。
 少し俯きかげんに首を傾げ、
 お決まりの台詞。
 ひよのが眉を寄せた。

「何が気に入らないって、皆さんのその被害妄想の激しさは本当に気に入りませんね」




 『そういう子供』だから。とか。

 『そういう運命』だから。とか。


 本当に、
 本当に。






「終わってる?・・・始めてみようともしない理由に、自分の生い立ちを使わないでください」






 救いを求めて手を伸ばすこともしないで。
 ただ、苦しんで。


 他人の痛みにも触れないで。



「はは・・・相変わらずひよのさんは手厳しいね」

 そう言って、カノンはまた困ったような、楽しそうな笑みを浮かべた。







「でも、僕は終わってるのはブレードチルドレンだけじゃないと思う。人間はもう、みんな駄目なんだ」




 汚れるところまで汚れた。
 堕ちるところまで堕ちた。




「僕らだけじゃない。もう・・・すべてに価値なんてないんだ。終わりを求めるべきなんだよ」





 諭すように言うカノンと、しばらく無表情で見つめあった後、やがてひよのがやれやれと嘆息した。




「・・・・・・そうですねぇ、そうかもしれません、ね」


「そうに決まってるんだ。弱くて自分の力じゃ何もできない。他人からのちょっとした干渉によって、壊れたりおかしくなったり・・・。・・・歩君だって、そうだろ?」




 君やお義姉さんがいなきゃ、彼はとっくに駄目になってたんじゃないかな?
 今はただ、それがまだ訪れていないだけで。




 そう言ってカノンが肩を竦める。




 その言葉に、ひよのは少しだけ眉を寄せ、小さく息を吐いた。






















 耳に残る、遠い、とおい 声。
















 ・・・・・・―――――あんたは、いらない子。































「・・・私がどれだけ嬉しかったか、救われたか。カノンさんには分かるでしょうか・・・・・・」
「・・・うん?」

 ぽつりと、独り言のように呟かれたひよのの声に、カノンが首を傾げた。








「言ってくれたんです」







 信頼している、と。








 いつでも自分に手助けをさせてくれて。







 必要と してくれて。














「鳴海さん、が・・・・・・・・・・・・私に意味をくれたん、です」

















 信じてもらえることの嬉しさを教えてくれて。




 もっともっと、必要とされる人間になりたいと 思うようにしてくれた。










 本人は、まったく自覚なんてないだろうけれど。















「いけませんか?私に意味をくれたこと、それこそが鳴海さんの・・・人間の価値だって」

「・・・・・・・・・」
















 カノンと同じように、ひよのも困ったように笑っていて。
 その顔を見つめながら、カノンもまた笑った。








「ねぇ、ひよのさん」
「なんですか?」

「じゃあ、僕が生きてる意味って何だと思う?」

 自分には ある?


 その 価値 というのが。















 その真剣な眼差しに、ひよのは少し考えた後、静かに微笑って言った。











「私には・・・それに答えることはできません、けれど」

















 けれど。








 自分の価値を追うのではなく 周りの人間、近しい存在の人間の価値を

 信じることが

 信じて守ることができたのなら。















「すごく。幸せじゃ、ないですか?」


















 そうすれば、何よりも








 価値のない自分のことを忘れることができるのだから。















 そう言って、ひよのが微笑った。少しだけ、寂しそうに。





 カノンは少し驚いたような顔をして、すぐにまた笑った。



「いいなあ」
「え?」
「いいなあ、歩君は」

「?どうしてですか?」

















 本当に、ほんとうに



 羨ましい。




















 ひよのの問いには答えず、カノンはしばらくくつくつと笑った後、ひよのの頬に手を当てた。




















 終










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