お願いだから。






  +夢無リロイ+






「行っちゃうんですか?」

「・・・どこへ?」
 振り返ったその笑顔は、残酷なほどに
 やさしくて。



「・・・・・・わかりません」


 俯くひよのに、カノンは微笑んで
 その蜂蜜色の髪を指で梳くように撫でた。












 これから





 どこへ?





 誰のところへ?





 何をしに?








 わからない

 わからない、けれど。





 あなたがこれから どうなるか。
 それだけは わかる気がして。
 最悪な答えが待っているような気がして。










「行かないでください、カノンさん」




「?どうしたの・・・」
「行かないでください」











 もう誰も殺さないで。


 もう誰も 不幸にならないで。


 もうこれ以上苦しむのはやめて。









 お願いだから。













「ハンターになって、仲間を殺しても、何も・・・・・・」
 言いかけて、口を噤む。



 向けられた笑顔が とても

 とても





 やさしくて。
 そして



 今にも泣き出しそうなほどに

 辛そうで。







「僕はどこにも行かないよ?ちゃんと帰ってくるよ」
「嘘です」

 きっぱりと言われ、カノンが苦笑する。
「・・・おかしいな。キミは誰よりも、人を・・・僕を信じてくれるじゃない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 ぎゅっと拳に力を入れて握り締める。

 本当は相手の腕を、背中を 捕まえていたかったのだけど
 それはしてはいけないことだと 知っていて。

 だから精一杯、拳を下で結んで、耐える。











「・・・・・・みなさんが大好きなんです。これ以上みなさんが苦しむのがいやなんです」




 だから だから
 誰も 殺さないで。









 自分ですらも。





 大事な人のために死なないで。












「・・・・・・・・・ありがとう」








 お願い だから。






「カノンさん、死なないでください」
「ひよのさん・・・・・・・」












 どんな姿でもいい。
 大事な人のために 生きて。










 死なないで。
 死なないで。
 死なないで。



 死なないで。








「ひよのさん」
「死なないでください」
「・・・ひよのさん」





 いかないで。





「死なないでください」

「―――好きだよ、ひよのさん」
「・・・ッ・・・・・・」


 一瞬だけ 口唇が触れて。

 でもそれは
 ほんの少しだけの熱を伝えて

 すぐに離れてしまって。


 ひよのの頬を音もなく雫が伝った。






「すきだよ」

「・・・こたえに、なってませんっ・・・・・・・・・」





















 静寂の世界に、足音が響く。

 決して終わることなどない階段を それでも昇り続けているのはだれ?
 その足場もすぐに崩れ去ってしまう。

 終わりが近づいている。

 避けられない 終わりが。












「・・・っんぜん、答えになってないですよっ・・・!」














 避けられない終焉を目の前にしていても。
 それでも、それでも

 どうか

















 いかないで。



















 了


++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


   *閉じる*