胸に秘めて歩くには
 君の声は綺麗過ぎる。






  +アルカロイド+






「・・・・・・・・・・・・・・・」





 朝目が覚めたら生きていた。

 あたりまえのことだから
 何の感慨も湧かないけれど。









 カーテンの隙間から差し込む光。
 歩はゆっくりと目を開いた。

 いつものように食事の支度をし、義姉を起こして食事をとらせ、自分は学校へ行く支度をする。

 あたりまえの習慣の行動。
 何も変わらない、今までもこれからも。

 あたりまえのことだから。
 だから何の感慨も湧かない。








 いつもと同じように登校し、同じように授業を受ける。

 教師の声も
 友達の話し声も
 教科書の手触りもみな いつもと同じで
 あたりまえのもので。








 午前の授業が終わり、昼時間が過ぎ、午後の授業が終わり。






 放課後、自分の足がさもあたりまえのように新聞部室へと向かっていくのもまた、あたりまえのことで。








 がちゃ。
 ドアのノブをひねり、慣れた様子で部室へ進み入る。

「・・・・・・?」
 しかし、いつもの明るく自分を出迎える声が返ってこない。
「・・・・・・・・・・・・・・・」








 不安じゃない。

 焦りでもない。

 ただ、漠然とした 不満。





 声が返ってこない。
 いつものように、当たり前に声をかけて寄って来ない。



 本当はそれが当たり前。



 自分にそんな風に接し、いつも一緒にいる、それこそが不自然のはずなのに。






 いつの間に、自分の中でそれが変わってしまっていたんだろう。













「あれ〜?鳴海さん、いらしてたんですか?声かけてくださいよ〜」





 鈴の音が聞こえたような気がする。


 何が嬉しいのか、ぱたぱたと小走りで走り寄ってくるひよのに、歩は眩しそうに目を細めた。











 朝起きれば、生きていた。

 立ち上がれば重力に従って足に重さを感じる。

 呼吸を止めれば、胸が苦しさを訴える。

 本当に、ほんとうにあたりまえのことで。
 何の感慨も感じないけれど。












 ただ一人の人間が、自分に笑顔を向けてくる。

 自分の言葉や行動に一喜一憂し、飽きもせず追いかけてくる。






 それがあたりまえのことであることに。





 ひどく驚いた。




















 終


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