無自覚の欲望は可愛らしいという話。
+ジアロジィ+
月臣学園新聞部は、部員は一人、部長兼部員という二年の結崎ひよのだけであった。
新聞部はひよのの権限で(まさにその通りで)部室は広いわエアコン完備だわ、まさに至れり尽せりで何不自由なく悠々と部活動が出来る。
その上月臣学園は一般の生徒や教師たちこそ知らないものの、ブレードチルドレンの件で大小問わず事件や噂が多く、活動においても暇はせず、むしろ有意義に仕事が出来るだろう。
一見すると人気の集まりそうな部活ではあるのだが、とりあえず部員は部長兼部員という二年の結崎ひよのだけであった。
ある日の放課後、新聞部室にて。
「こ・・・こんにちは!」
「?」
やけに緊張して固まっている見知らぬ男子生徒。
雑誌の文字を追っていた目線を扉の前にいるその男子に向け、歩は首を傾げた。
「あ・・・あれ?結崎さんは・・・・・・」
ひよのがいないことに気付くと、拍子抜けした、というような顔で男子生徒が部室内を見回す。
「・・・・・・・・・」
ひよのはちょうど茶葉を買いに購買へ行ったところだった。歩を留守番にして。
雑誌から完全に目を離すと、歩は無言のままその男子生徒をじっと見やる。
「・・・あ、あの・・・鳴海君?」
歩のその目線に男子生徒が困ったように呼び掛ける。
・・・俺を知ってるってことは・・・一年か。俺は知らないけど。一人納得すると、何気なく視線のみを天井に向ける。
考えてみれば歩はかつて学園の殺人事件で容疑者になったり、教師が刺殺された事件(犯人は理緒だが)では大々的に「オレが解決しちゃうよ宣言」などをしたりと、学年を問わずちょっとした有名人であったりするのだ。
「・・・・・・入部希望者か?」
歩が首を傾げながら問うと、なぜか男子生徒は少しまごつきながらそうだ、と答えた。
物好きがいたもんだ・・・・・・。歩は大きく哀れみの念を込めて嘆息すると、
「なんだって、新聞部なんかに?ここはやめといた方が」
歩が止めようと台詞を言い終わる前に、ふと言葉を止める。
男子生徒がわずかにだが顔を赤らめ、何かもごもごと言い訳のようなことを呟いている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
歩は鈍いほうではない。少なくとも、自分以外の人間の感情には。
つまりはアレだ。この男子生徒(よく考えてみると同じクラスだったような気もする)はひよのにホの字(ひと昔前の表現)だったりするのだろう。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・///(汗)」
長く気まずい沈黙が流れ、やっと歩が口を開いた。
「アイツは・・・」
「?」
「外に取材に行ってる」
「そ、そう。じゃあまた次に・・・」
「部員は自分一人で十分だと・・・言ってたぞ」
「!!!!!!」
歩の言葉に、男子生徒は見事なまでにガックーンと肩を落とし、何やらボソボソと低い声で呟きながらのろのろと部室を後にした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
パタン、と部室の扉が閉まるのをぼんやりと見ながら、歩は膝の上にある雑誌に視線を戻した。
「あぁあ、暇ですね〜」
「・・・・・・」
「部員一人っていうのは寂しいもんですからねー。鳴海さんはこんだけこの部室にお世話になっていながら部員じゃないなんて仰るし・・・」
特大のため息を吐きながら、ひよのが長机に突っ伏する。
「あぁ、新聞部ってそんなに人気ないんでしょうか・・・どなたか入部して下さいませんかねー」
「・・・・・・・・・」
ひよのに目を向けることもせずに、歩は雑誌のページをめくった。
終
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