今あたしが生きていることを肯定してくれる言葉。 タリス・カノン
「誕生日おめでとう」 「ありがとうございます、弟さんはあと一ヶ月ちょっとですね」 一足お先に、理緒がそう言うと歩はふっと小さく笑い、何か欲しいものはあるかと尋ねる。 彼は理緒にどこかしら甘い。 彼の横でずっと彼を支え続けた『彼女』でさえ、彼に願い事を尋ねられたことなど一度だけだったと言うのに。 欲しいものを訊いた歩に、理緒は遠慮なく顔を輝かせた(仲間が彼にこっそりと依頼してくれた、極上のケーキを貰ったそばから)。 「それじゃあ、…来年の誕生日、おめでとうをください」 満面の笑みを浮かべる理緒に、歩は少し目を見開く。 「もしかして、来年の願いは」 「再来年の誕生日、おめでとうをください」 にひひと歯を見せて笑うと、歩はやれやれと首を振った。 「なかなか難儀な願いだな」 「お返しは、弟さんの誕生日、おめでとうを贈りますね」 来年も、再来年も。もちろんそれからも。 来年、再来年。 時の流れが重なることを、そんな言葉を口にする度にちくちくと不安と恐怖が胸に刺さったものを。 それを希望に変えてくれたのは、そうする力が自分にだってあるのだと示してくれたのは、彼だ。 「貴方の誕生日には、貴方の生をあたしが一番に祝福します!」 理緒の言葉をきょとんとした表情で聞いていた歩が、ゆっくりと笑う。 眉を下げた、困ったような、「…それじゃあ俺も、がんばってみるか」けれど間違いのない笑み。 「まずは35日後、楽しみにしておくよ」 そう言ってぽんと理緒の頭に手のひらを置いた。 理緒はその手をとり、彼女の小さな両手で包み込んで胸元に、祈るような仕草で。 「はい」 来年のあたしが生きていることを。 来年生きているあなたに肯定して欲しい。 終 |