とりあえず動いてみようか。














     +未来ボリビア+













「たとえばですね、目の前に爆弾の起爆スイッチが二つあるとします」



ひとつは、自分の足元の、自分だけを吹き飛ばす程度の威力で。
ひとつは、とおいとおい見知らぬ国のすべてを無にしてしまうほどの威力で。




「どちらかひとつを押さなければならないとしたら、あなたはどれを選びますか?」



「・・・にこにこ顔で聞くよーな質問かよ・・・・・・」
頭を抱え、歩がはあ、と大きく溜め息をついた。

二本指を立てたまま、ひよのがきょとんと目を丸くした。
「たとえば、の話ですよ。自分が死ぬか、それとも大勢の見知らぬ人間に死んでもらって助かるか。鳴海さんならどっちを選びます?」
どうやら答えは絶対に聞くつもりらしい。
歩は腕を組み、椅子の背もたれに身体を預け、天井に視線を移した。



「俺なら・・・・・・・・・・・・」







「たとえばですね、目の前に崖があって、二人の人間が落ちそうになっていたとします」



ひとりは、重病を患っていて、あと三日生きられない大好きな親友で。
ひとりは、大嫌いだけれど、自分の将来の裕福を約束した富豪で。




「どちらかひとりだけしか助けられないとしたら、あなたはどなたを選びますか?」








「たとえばですね、海で遭難してしまってある無人島に漂流してしまったとします」



そこにあるのは、コレラ菌に侵されてしまった魚と
この場所に辿り着くまでに力尽きてしまった友人(の体)。




「生き延びるために・・・・・・・・・」








「たとえばですね、もし・・・」
「もうやめろ!!」

突然声を荒げて言葉を遮った歩に、ひよのが疑問符を浮べる。
「どうしました?」
「なんで・・・なんでそんなこと訊くんだよっ!気持ち悪い・・・ッ」
「残酷な選択に、今のうち慣れておいた方が良いじゃないですか」



ものごとは、選ぶことで進んで行く。
その場その場で目まぐるしく変化していく周りの人間や、自分の感情。
そんなものに影響され、大抵は深く考えた末に選び取った道、なんてありはしない。



「あらかじめ考えておいて、後悔のないような人生を選び取らないと。そう思いません?」



にこりと底の知れない笑みを浮べるひよのを、歩が信じられないといった風に凝視する。
「あんた・・・変じゃないか?」
「?どうしてですか?確かに普通じゃない質問ですが大事なことですよ」
「なんでだよ」









この世の中にいるのは、生物と無生物。

この世の中にいるのは、奪うものと奪われるもの。

この世の中にいるのは、傷付けるものと傷付けられるもの。

この世の中にいるのは、人を殺せるものと殺せないもの。

この世の中にいるのは、前を見つめることができるものと、逃げることしかできないもの。








「私たちが人間である限り、選択は無限に存在するんです。それを哀しくなるとか気持ち悪いとか予想もつかないとか、そんなことで考えないようにして目を背けるのは現実を直視していないことと同じだと。そう思いません?」



歩は視線を足元に落とした。
返す言葉が見つからない。
何を考えているのか分からない。

ひどく胸がざわめく。目の前にいる人間が得体の知れないものだと本能が告げている気がする。



「・・・確かに。あんたの言うことも一理ある。今のうちに自分にとって大事なものを考えて頭に入れておくことは、必要だと思う」







後悔しないために。

今で分けておこう。


この世の中にあるのは、しょせんは



自分にとっているものと いらないものだけなのだから。









「だけどな、今決めてある通りに行動するなんてできんのか?俺たちは人間だ。感情に捕らわれない生き方なんて、できるわけないじゃないか。だったらその質問は無意味だ」








「そういうもんですかねぇ・・・・・・・・・」



「・・・でもあんたのことだ。俺に何か期待してそんなバカげた質問をしたのか?」
「バカげたなんて失礼ですね。・・・でもまぁ、鳴海さんならどういう答えを導き出すか、興味ありましたね」


「・・・導き出す?二択の究極的な質問では深い考えなんて無意味だろ」






「最初の質問ですが。浅月さんにお聞きしたら、首謀者と交渉して、なんとか時間をもらってそれから考えると仰いましたよ」
「・・・・・・」
「理緒さんに同じ質問をしたら、とりあえず爆弾を自分で解体してみるって」
「・・・・・・・・・」


選択は、二つ?
選択なら星の数ほどある。
しかしそれは、「こうであるとして」というある程度の仮定を要するけれど。

その仮定の数も考慮したとしたなら、選択の数は無限に達するだろう。





「・・・あんたなら、どうするんだ?」






それは、自分たちが人間であるから。
それだけの理由。そしてそれだけがすべてで、それだけですべては繋がっている。






「とおい異国とやらに連絡をとって、避難してもらったあとにそちらを爆破させてもらいます。とりあえず死にたくはないですねぇ」









準備される答えはわずか。
あとは自分の力と 持っているすべてで。







作り出して抜き取って選び取って勝ち抜いて生き延びて。















絶対なんて、絶対に、ないのだから。
















 終





++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


   *閉じる*