さぁ、最高の罪を犯そう。
君の為に残すんだ。

ちゃんと哀しんでくれよ。









     +バニラ+








「嬢ちゃん、人を殺したことはあるかい?」




「何のつもりで訊いてるんですか?」
「皮肉」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 溜め息が小さな懺悔室に響いた。








「じゃあ、なんで俺が人を殺すか解るかい?」




「さぁ・・・人の命を握ることで・・・ご自分が優位に立っているという悦に浸りたいからでしょうか」
「違うね」
「適当に言ってみただけです」



「答えは簡単。俺が人殺しだからさ」



「・・・・・・それはそれは」
 ヒヨノは笑った。嘲りの色を込めて。



「人殺しだから人を殺すんですか?人を殺すから人殺しなんですか?」

「前者」

「・・・・・・それは安心しました」






 嘲笑し続けるヒヨノに、アサヅキは眉を寄せる。それに気付いたヒヨノが目を細め、口元に手を添えながら言った。



「私は知ってますよ。人殺しじゃないのに、今まで、そしてこれからもあなたよりずっと多くの人間を殺し続ける人を」




「・・・・・・何だと?」
「私の恋人はお医者さまですから」






「あの人は人を殺してしまうと自分は自分ではないと嘆き苦しむのに、あなたは人を殺すことで人殺しであるご自分を保持する・・・これが自分だと自分に言い聞かせて。だから人を殺すことしかできないし、ただ人を殺していればご自分でいられる。」






 楽ですねぇ。






 嘲笑った。










 その細い首を締めてしまうことは簡単だと思う。
 けれどそうはしなかった。

 人を殺すことしかできない?



 じゃあその考えを否定してやるよ。





 人殺し以外のことも出来るって、証明してやる。そして後悔させてやろう。





 そのために命を捨ててみるのも悪くは無いと、そうも思った。













「じゃあ、俺が今からお前を否定してやるよ。人殺しの自分を否定することで、人を殺す以外のことも出来るってこと、証明してやるよ」







 簡単だ。

 人を殺さなければいいんだろ?

 人殺しが人を殺さないということは


 人殺しである自分を消去するということで。






 自分を消去するということは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・











 これ以上殺さないようにするためには?



 簡単だ。




 生きているだけで人を殺していく人殺しが消えればいい。









 アサヅキは笑った。笑って、席を立ち上がると窓を開け放った。

 ヒヨノに何も言わせず、宙に身を躍らせれば、あとは簡単。身体は重力に従って落ちていくから。














 堕ちていくから。



























「やっぱり可哀想なお人でしたねー」


 ふ、と口の端を持ち上げるだけの笑みを浮べると、ヒヨノはゆっくりと席を立ち、窓際に歩み寄った。











「最期の最期まで、人を殺すことしかできないんですねぇ・・・」





 人殺しというひとは。











 窓から遥か下にある地面を見下ろし、ヒヨノは目を細めた。

























 終





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