口ズサム歌ヲ唇ニノセテ名前ヲヨンデ






 





     +コール+











定期テスト前。
歩にひよの、理緒に浅月に亮子・・・要するにいつものメンバーは相変わらず新聞部室にいた。
皆で集まって勉強会を開いているのだ。


「なんであんたらがいるんだよ・・・・・・」
シャープペンを中指と人差し指で挿んで弄びながら、苛々と歩が言う。
「なんでって・・・なんか最近当たり前みたいにここにいますからね・・・。ま、分からない所教え合えるんだし良いじゃないですか」
心外だと言う風に理緒が唇を尖らせる。
その言葉に歩は嘆息しシャープペンを、相変わらず二人で口喧嘩(もとい痴話喧嘩)をしている浅月と亮子にびしっと差し向けた。
「学年違ったら意味ねーだろ」
「だってここクーラー効いてていつでも涼しいからさ〜」
「そうそう。分からない所はいつでも聞けよ、後輩」
「誰がだッ」
笑顔で手をひらひらとさせながら言う二人に、歩が額に青筋を浮べる。


「鳴海さんも、お家で勉強しないんですか?」
いつものように麦茶を人数分お盆に載せ、ひよのがひょっこりと顔を出した。
「・・・俺は・・・・・・」
「そりゃ。テスト期間で授業が短縮される今、普段より少しでも嬢ちゃんと一緒にいたいからだろ」
「なッ!!!!」
からからと笑って言う浅月に歩が非難の声を上げる。
額の青筋が一気に増え、顔は心なしか紅くなっている。
「そ、そんなんじゃねー!」
「今更照れんなよ。まぁ違うってんならあえて強く言わねえけどよ」
「習慣ってことにする?あの娘と一緒にいること自体が当たり前になってきてるもんねぇ」
「いやぁおアツいよなぁ。クーラー付いてて良かったぜこの部室がよお」
「そうそう。弟君もクーラーガンガンで快適なこの部屋を口実にここに日参できるし」
「黙れ二人共・・・・・・」
わなわなと握る拳を震わせながら、歩が精一杯の低い声を搾り出した。


「そういえば・・・・・・」
「?どうした?」
もともとここにいるのは頭の良い者揃い。
理緒や歩は言うまでもなく、全員が誰に質問するでもなく、ただ無言にノートにペンを走らせていた中。
ふと思い出したように、理緒が沈黙を破ったのだった。


「ひよのさんって、弟さんになんて呼ばれてるんですか?」

「「え?」」
目をくりくりとさせながら問い掛ける理緒に、歩とひよのの疑問の声が重なった。

「どうしてそんな事を?」
「そりゃ。コイビト同士どう呼び合うのか気になるじゃないですか」
「誰がッ!!!!」
今度はてめえかッ!!とばかりに歩が叫ぶ。叫んだ拍子に思い余って机を勢い良く叩いてしまったが、全員が見事なタイミングで麦茶をさっとどけたので被害は無かった。

「そういえば気になるよな。やっぱり嬢ちゃんに特別なあだ名でも付けて呼んでんのか?」
「もしかして『ひよ』とか『ひよひよ』とか!?『結崎』もなんかいいよな〜」
にやにやとしながら言う浅月に続き、亮子も歩を煽る。
「なんであんたらはいつもそういう話に・・・」

「ひよのさん、なんて呼ばれてるんですか?」
浅月達を見事無視しながら理緒がひよのを見やる。
ひよのは顎に手をかけ、視線を天井に移しながらうーん、と唸った。歩に呼ばれているときを思い出しているらしい。

「あ、『あんた』ですね」

「なにー!?」
ひよのの言葉に、真っ先に声を上げたのは浅月だった。
呆れ顔で我関せずを装ってノートをとっている歩の手からシャープペンをさっ!と物凄い速さで取り上げた。
「マジで嬢ちゃんのことそう呼んでんのかよ!?」
「それってあたしや亮子ちゃんを呼ぶときと同じじゃないですか!」
「自分の女のコにあんた、なんてどういう了見だい」
「だからなんでそうなるんだよッ!!」

「ま、お前にとってすべての人間は等しく『他人』だろうからな。そうだろうけどよ・・・」
浅月がはあと嘆息混じりに頭を掻く。
その言葉が全面否定できるものでもなく、歩は言葉を詰まらせる。
「恋人とか特別な方には特別な呼び方をすると思ったんだけどなぁ・・・」
理緒が残念そうに歩とひよのを見比べた。
ひよのに至ってはもう何を言われているのか分からない、と言った風に唖然としている。

「もういいだろ!その話題から離れろ!そして忘れろ!・・・おい、浅月!ペン返せよ」
歩が最早耐え切れんと言った風にこめかみの辺りを抑えながら浅月に手を伸ばした。
「あーあ。ひよのさんと同じく、亮子ちゃんにもアンタ。あたしにもアンタ、そしてこーすけ君にも・・・・・・・・・」
嘆息混じりに伸びをしながら言う理緒が、ふと言葉を切った。

「・・・・・・こーすけ君には・・・?」
今さっき、浅月の名を呼んだ(ごく普通に自然に流れるように)歩を同時に全員が思い出す。
そしてひよのがあ、と小さく叫び、ぽん、と手を打った。


「特別なヨビカタ」




シャープペンを持つ手を遠くに伸ばし、歩に悪ふざけをしている浅月に手を伸ばしたままの形で、歩がぴしっ、と石になった。
そんな自分達をぽかんと口を開け、どこかすっきりしたーと言った風に女子三名が指差している。



特別なヨビカタ、イコール・・・トクベツな???





ぶちん、と歩の頭の中で何かが切れる音が部室内に響いた。
















 終





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