こんなカンヂで。
+ハチポチ+
今日も今日とて月臣学園の屋上。
鳴海弟こと鳴海歩と新聞部部長の結崎ひよのが並んで座って昼時間を満喫している。
いつもながら、冷めた態度の歩ににこにこ顔でしきりに話し掛けていたひよのが、ふとある事に気付いた。
「あれ〜?鳴海さん、今日は購買のパンですか?」
「あぁ・・・。今朝はちょっと寝坊しちまってな」
ずずいと覗き込んでくるひよのに多少引きながら、歩は頭を掻いた。
「鳴海さんの・・・美味しすぎ弁当が・・・今日は見られないのですね・・・」
しょんぼりとするひよのに「なんであんたが俺の弁当の味を知っている」と歩が突っ込みを入れる。
「鳴海さんが寝坊ですか?また珍しい・・・」
「ちょっと考える事があってな」
その考え事というのが少し深刻ちっくなのか、歩はひよのに「なんであんたが俺の生活リズムを知っている」という突っ込みを入れ忘れてしまった。
そうして空をふっと見上げた歩に、ひよのが分かります、と頷く。
「ぶれちるの事ですよね・・・」
「略すな」
「別に悩んでるとかそんなんじゃねぇけど。ただ最近色々たくさんの事があったから・・・」
疲れてるんだろ、
と、歩はそう言って力なく笑った。
「・・・・・・」
そんな様子をひよのは心配げに見ていたが、やがて黙って考え込むように食事に取り掛かっていった。
「(今日も購買だぜ・・・)」
購買のパン屋の列の一部になりながら。
今日も寝坊してしまった・・・。かろうじて遅刻はしなかったが。同時に寝坊させてしまった姉に今夜もまたどやされる事になるだろう(自分の責任らしい)。
なんとか機嫌をとる為には、やはり新メニューでご馳走するのが一番良さそうだ。
そんな気分じゃないのに・・・。それを思い、歩は深く嘆息した。
「鳴海さん♪」
ふと声を掛けられ、振り向くと。
そこにはひよのが相変わらずのにこにこ顔で立っていて。
「なんだ・・・あんたか」
「なんだとはヒドいです!それより・・・はい、鳴海さんどうぞ♪」
そう言ってひよのが大事そうに抱えていた紙袋を鳴海に手渡した。
屋上にて。
紙袋に入っていた、水色のバンダナで包まれた弁当箱。
それを見て、歩が目を丸くし、弁当箱を指差して言った。
「これ・・・あんたが作ったのか?」
「そうですよ〜!なんとこれで今日は三時起きです!」
「どんくらい時間掛かってんだよ・・・」
そう言いながらも箱をそっと開けてみる。
中にはおにぎりに卵焼き、ウィンナーにサラダといった、弁当のオーソドックスなメニューが色とりどりに詰められていて。
歩は心の中でほう、と息を漏らした。
見た目、かなり美味そうではあるのだが。
ゆっくりとフォークを手に、メインっぽい煮物を口に運ぶ。
「どうですか?鳴海さんっ」
横でひよのが期待に満ちた眼差しを送ってくる。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・あの・・・鳴海さん?」
ずっと無言で二口、三口と料理を口に運ぶ歩を、ひよのが不思議そうに伺う。
やっともぐもぐとさせていた口からフォークを離し、至極真面目な表情で歩がひよのに向き合う。
そして開口一番。
「マズイ」
「なっ!!」
一瞬でひよのの顔が固まり、額に青筋を浮かべる。
「・・・あんた・・・コレ味見したのか?卵が甘いぞ」
「当たり前です!卵焼きにはお砂糖ですよ!」
「俺は沖縄テイストなんだ。卵焼きには塩だ」
「何ですかそれ!知りませんよ!!」
「あんた料理苦手なんだな」
「う〜。そうですよ!だけど私は最近落ち込みぎみの鳴海さんを想って朝も早く起きて頑張ったのに・・・あんまりですよ〜」
ハンカチを取り出してさめざめとわざとらしい演技をするひよの。
それを歩は「・・・」困ったように頭を掻くと。
「俺が料理教えてやろうか?」
「え?」
そんな気分じゃなかったんじゃないんですか鳴海さん。
「私が鳴海さんのお家にお邪魔していいんですか!?」
「今日はねーさんに新しいメニュー考えなきゃならないんだ」
「じゃあ・・・微力ながらお手伝いさせてくださいっ!」
そう言ってにっこりと嬉しそうにひよのが言った。
なんだかんだ言ってひよのが歩に渡していた弁当箱は空になっていて。
「・・・ったく・・・こんなトコで真昼間に見せ付けてくれるぜ・・・」
屋上で昼寝しようとやって来た浅月が、そんな二人の様子を見て頭を掻きながら帰って行ったとか。
終
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