要らなくても
 差し出されたら拒めない きっと













             in the cold wind












「寒いねぇ」
 凍えた声が吐き出されると同時に、吐息が白く立ち上った。
 それを見て面白そうに、エンジュが何度かはあ、と息を吐いて遊ぶ。
 そんな様子を横目で見ながら、ルックが無言で身震いした。
 寒さはとことん苦手だ。
「………寒いってもんじゃない」
 きみはよく平気だね、と言わんばかりに両手で自分の身体を抱き竦める。
 奥歯ががちがちと鳴って言葉も上手く発音出来ない。

 毛皮のコートを豪快に羽織り直しながら、ルックは空を見上げた。
 冬らしい、白と灰を織り交ぜた空。
 雪はかろうじて降っていないが、この寒さだと夜にでも降り始めるかもしれない。

「…魔法、使っていい?」
「だめ。 いいじゃん、たまには季節を堪能しながら歩くのもさぁ」
「一人で堪能しなよ」
「一緒がいい」
「………」
 穏やかに笑うエンジュに、ルックが呆れたように首を振る。


「寒いねぇ」
 先ほどと同じ言葉を吐く。
 この寒さだ、きっと同じ言葉しか出てこない。
 でもエンジュのはまったく寒さが応えていないような口ぶりで。
 ルックは更に白くなっている自分の両手ががたがた震えるのを眺めながら、嘆息した。

 寒くて、今すぐ暖かい城内に入りたかった。
 魔法で帰りたくないと言うエンジュ。
 エンジュを置いて一人で帰っても良かった。
 一緒がいいと言うエンジュ。
 そしてそれに答えもせずに応える自分。
 自分に一番呆れた。


 凍りつく草をさくさく踏みしめながら歩くと、ポツリとエンジュが零した。
「こう寒いし、手でも繋ごうか」
「…意味分からない」
「まぁ、寒いからっていうかね。
 誰かさんがどこかに行ってしまわないように、手繋ぎたい」

「…………意味分からない」
「本当に分からない?」
「誰かさんって、誰? ぼく? きみ?」
「誰かさんだよ」
 くすりと笑いながら、エンジュがルックの腕を引っ張る。
 有無を言わさずコートの中に埋めている手を露わにして、自分の手と繋ぐ。
「…暖かくないんだけど」
「寒くて暖を取るのが理由じゃないって言ったでしょ」
 そう言ってまた笑う。

 どこかに、行ってしまうのは?
 ぼく?
 きみ?


 はぐらかされた。


 眉を寄せながら、それでも手を振り払うことはせず、ルックが嘆息した。
 そして質問を変えてもう一度口を開く。

「淋しいの?」

「寒いからね」


 今度は答えになっていない答えを言われ、また笑われた。



 風の音が更に高く、強くなったのを感じて。
 空が白さを増し、空気の温度が一段と冷えて。
 その中で微かな、右手を握るエンジュの左手の温度を感じ取って。



「………寒いってもんじゃない」

 そう呟いて、ルックはその手をぎゅっと強く握り返した。
 その温度で、そのつよさで、
 その手を繋ぎとめることができるとは、思えなかったけど。

















   終











06/12/18


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