無垢な君の言葉が残酷に突き刺さる。



その度に僕は泪を流し


襲いくる罪悪感と後悔と愛しさを噛み締めるんだ。









     +フォルク+








 きらきら、でもなくふわふわ、でもない。



 ただ無音の美しさ。





 一面を飛び交うそれに、エンジュはただ絶句した。





「どうしたよエンジュ?キレーだろ」
 ただ大きく目を見開いて立ち竦んでいるエンジュを見て、テッドが可笑しそうに笑う。
「これが・・・ホタル?」
「そうだよ」
「初めて見た・・・・・・」
 感嘆の溜め息をつきながら、右手をゆっくりと行き交うオレンジや黄色の光に手を伸ばす。
 ゆっくりと捕らえた一匹を、慈しむかのような優しさで撫でながら、エンジュは目を細めた。
「きれいだね・・・」




 宵闇に溶けることもなく、光明に導くわけでもなく、ただそこに存在し、たゆたう光。
 捕らえれば、時が止まる。
 その自由な美しさに息が詰まる。




「でもよ、蛍ってのは一週間もしないうちに死んでしまうんだ」
「え?」

 テッドの言葉にエンジュが目を丸くする。不意に開いた掌から、一粒の光が音もなく舞い上がった。

「そんなに短い命なの?」
「あぁ」




 光も、いつかは闇に呑まれる。
 終わりある生だから。
 短い一生を、光の中に漂わせて。





「なんか素敵だね」

「・・・・・・」
 笑みながら放たれたエンジュの言葉に、テッドが目を見開く。
「そんなに短い命でも、その間ずっとこんなきれいに光り続けるなんてすごいや」


 終わりがあるからいい。
 果てを知り、終幕を憂い、少しでも強く、多く、長く輝こうとする姿がいい。
 そう言って微笑うエンジュの黒の瞳には、オレンジや、黄色の光の粒が浮かんでいて。



「・・・・・・・・・・・・・・・そう、だよな・・・・・・」









 果てのない、命。
 終わらない生。
 命を擦り減らすこともなく、ただその手から次々と何かを無くしていく感覚だけを連れた。
 輝きもない、ひたむきもない、強かさもない。
 執着もしていない生に蝕まれ、苦痛と虚無を連れて決して辿り着けない終着駅に向かって歩き続ける。



 そんな、それだけの、命。










「おまえも、ホタルみたいに・・・こうありたいんだな」
 呟かれた声がひどく震えていて。テッドは思わず喉に手を置いた。そんなテッドにエンジュは首を傾げ、しかしにっこりと笑って頷いた。



「限りある命で、大事な人たちと一緒に、ずっといれたら、幸せじゃない?」





 テッドは何も言わなかった。ぎゅっと右手を握り締め、俯く。















 今すぐこの右手を切り落とすことができれば、どれだけいいだろうと思った。



















 その時は、知らなかった。自分のこの激しく嫌悪し、鎖で繋がれた命に、いつか潰える時がくるなど。

 今は震えて声が出せない喉が、いつか目の前の相手にただ謝罪を叫び続ける時がくるなど。















 蛍はただ、きらきらと華やかでもなく、ふわふわと優しくでもなく、ただ無機にそこに漂っている。








 エンジュがテッドに訝しげに声をかけ、テッドの喉から嗚咽が聞こえてくることに気付くことも。
 テッドがただ右手を握り締め、奥歯を噛み締めて泣き声を上げることも。
 人の命が潰えることも、自分の命がやがて消えていくことも、もしかすると世界が回っていることも、彼らには関係のないことなのかもしれない。



 どうせ消え行く光で、潰える命なのだから。





















 残酷な美しさが、無音に生きていた。









 終わりなき哀れで醜い魂を、嘲笑うかのように。



























 終





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暗いというか・・・なんというか・・・;
なんか私が書くとテッドが本当に救われなくて可哀想です(涙)
すっごい純粋で無垢で、無知な坊ちゃんといて、テッドってその純粋さにすごく心を痛めつけられたと思うんですよー。
あ、でも勿論テッドの300年の辛かった「今まで」を、その純粋さで癒して救ってくれたのも坊ちゃんだけだったとも思います。
なのでその救われる話も書きたいなぁ。


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