心をこめて大きな声で。











     +スピア+










今は仲間を増やすことに徹底しようという軍師らの意見により、最近は戦線に赴くことは滅多に無い。
ルックは中央ホール、いつもの石板の前で相変わらず本を広げていた。
ルックが軍主たちのパーティーに入って仲間探しをすることなど無い。めんどくさいから、とルックが断るより先に、以前の戦友(?)であるビクトールやらフリックやらが、『この無愛想がいるっと駆け引きもうまくいかねえ』だそうで。
とりあえずルックはここ最近は城を出ることもなく、石板にもたれて本を読んで日々を過ごしていた。

まぁ、暇はしなかったが。

ルカ・ブライトの死後、入れ違うようにしてかつての解放軍を率いたトランの英雄が同盟軍に顔を見せるようになっていた。
そのトランの英雄ことエンジュ・マクドールは、解放戦争の頃から割とルックと仲が良かった。
よって戦闘もあまり無い最近では、エンジュは自然と暇を潰しにルックの元へと足を運ぶことが多い。

「エエエンジュ殿、こんにちは!」
「こんにちは」
やけに固まって兵達がどもりまくりながら敬礼した。それに笑顔で応えながら、エンジュが中央ホールへと足を運ぶ。
同盟軍の全員といっていいほどの人間たちがエンジュ・マクドールの来訪をいつも待ち侘び、来訪のその時にはもう皆が花道を作りかねない勢いだがそれは何とか押し止め、それでも全員がエンジュがおっとりと歩くその姿を目で追っているは確かで。(本人気付いてんだか気付いてないんだか)
挨拶をし、笑顔で返された者はもう、今にも天に昇らんというような表情でトリップ。そしてそのまましばらく腑抜けになってしまうのだから、エンジュも人畜無害とは言い難い。
普段は同盟軍軍主でありエンジュバカのフレイが迎えに行き、四六時中べったりで他の者たちは滅多に近付くことができないというのが現状だったのだが、今日は軍主はなぜか女の子ばかりを侍らせて隣の港町へと行った。よって、エンジュはフリー。いわゆる、遊びにきたってやつである。

「やぁ、ルック」
石板の前までてくてくとマイペースに近寄ってきた後、またもにこやかにルックに手を振って挨拶する。
「・・・・・・・・・」
ルックは言葉を返すこともせず、本から目を離すこともない。いわゆるシカトというやつだ。
しかしエンジュはそんな様子にもくすりと小さく微笑っただけで、構わずにルックの隣で石板に寄りかかった。

「・・・・・・ねぇ」
しばらく無言の状態が続き、訝しく思い始めたルックが隣で突っ立ったままでいるエンジュに声を掛けた。エンジュがにこりと笑ってなに?と返す。
ルックはエンジュの笑顔に「・・・」たっぷり五秒は時間をおいて眉を寄せた。
「・・・・・・なんでそんな嬉しそうなの」
「え?無視したと思ったルックが話し掛けてくれたからだよ。なに?」
「・・・・・・・・・」
さらりと笑顔(しかも厭味無く嬉しそう)で返してくるエンジュにルックが言葉を詰まらせる。
しかし頭を大きく振ると、本を閉じながら続けた。
「・・・今日は戦線に出ることはないのに、なにしにきたの」
呟くようなその声に耳を傾けながら、その台詞にエンジュが視線を天井に移す。
「暇だったから遊びに来ようかなって」
「・・・ふーん」
「ここの図書館って珍しい本もたくさん揃ってるから」
「じゃあ図書館行きなよ」
「ルックも行こう」
「なんでぼくまで。場所くらいわかるだろ」
「ぼく分かんない〜。一人で行けないよ〜」
「・・・・・・・・・」
「冗談だよ冗談」
半目で今にも特大の溜め息を吐きかねないルックにエンジュがけたけたと笑って頭を掻く。
「面白い本ある?お勧めのやつとか」
屈託の無い笑みを向けてくるエンジュにルックは心の中で小さく嘆息すると、自分の頭にある『オモシロイ本』リストを洗ってみた。
「・・・・・・ラニエル・クリフのテロワリンゲスは読んだ?」
「ううん。どんな話なの?」
「人間の存在意識と自我を比較して理性と・・・・・・」
興味津々と問い掛けてきたエンジュに対するルックの答えは、最後まで続かなかった。

「ねぇ。二人、近過ぎない?」

「「!!!」」
突然にゅっと間に入ってきた顔。
言わずと知れた同盟軍の軍主、フレイ本人である。
「今日のノルマなんとかクリアして、帰ってきたらエンジュさんが来てるってみんなが言うんだもん〜!エンジュさん、いらっしゃい!!」
魚屋の主人のような粋のいい挨拶をしながらフレイがエンジュの手を取る。
後ろから兵達と挨拶を交わしながらビクトールやフリックもやって来た。
「よう、エンジュ。・・・って、なんだ?どうしたんだ?」
親の仇を見るような目でルックを見つめるフレイの様子にぎょっとしてビクトールが問い掛ける。そんな様子にエンジュもさあ?と疑問符を浮べた表情で肩を竦めた。
「近いって、何が近いの?フレイ」
「エンジュさんとルックの顔が。近い!」
憮然と言い放つフレイの言葉に、本人たちを含め、全員が二人の距離を直視する。
まぁ、確かに。近い。
遠くから見ると内緒話、近くから見ると寄り添うカップル。とりあえず20センチのその距離は近すぎるといっていいほどには近い。
それを悟った瞬間、ルックが眉を寄せ、エンジュはあ、と小さく声を上げ、ゆっくりとルックと距離をおいた。

「・・・・・・・・・」
「フ、フレイ・・・・・・」
わなわなと肩を震わせるフレイに、苦笑を浮べながらフリックが声を掛ける。
「こんな公衆の面前で・・・真昼間からこんなくっついていちゃいちゃと・・・」
「なんでそうなるのさ!」
「そうだよ。近くにいるからぼくとルックの心の距離が近いってわけじゃない」
今さらりとエンジュがドライなことを言ったのに気付かなかったのはフレイくらいであろう。
しかしそんな様子を面白がるビクトールがダメ出しする。
「じゃあこんな真昼間な公衆の面前じゃなくて、深夜の二人っきりならいちゃいちゃしていいのか?フレイ」
「「なっ・・・」」
ルックとエンジュの声がはもる。
にやりとしたビクトールの言葉にフレイは一瞬ショックを受けたような表情を浮べ、次に拳に力を込めながら言った。いや叫んだに近いか。

「ぼく以外とは絶対ダメ!!!!」

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
その場にいた全員が言葉をなくす。これはどうしたものか反応が思いつかないようだ。
しかし硬直を解いたエンジュが、こめかみの辺りを抑えながらフレイにうめくように言った。
「近くで話してただけだよ、しかも本の紹介・・・」
「言い訳しないでください!」
ここまできてフゥ、と困ったように息をつき、エンジュは続けた。

「顔を近づけたのだってぼくからだよ?」

はぁ?
全員の心の声が重なる。
単に現状を素直に嘘無く説明しているだけなのかルックをかばっているのか。何にせよ言い訳にもなっていなければその場を凌げるような発言でもない。
「つまりエンジュは好きでルックの顔に自分の顔を近づけた、と?」
「変な表現しないでよ!」
ビクトールの言葉にルックが額に青筋を立てる。
しかしそれをあっさりと無視し、エンジュが続けた。

「だってルックの声って聞き取りにくいんだもん」

「・・・・・・え?」
予想外のエンジュの言葉に、フレイが間抜けな声を上げる。
言われた本人であるルックもきょとんとした顔をしていて。
「ルックの声って小さいから、近付かなきゃちゃんと聴こえないんだ。聞き返して何回も言わせるっていうのもアレだし、近付いてでもちゃんと聞こうと思って・・・って、もしかしてぼくだけ?」
ぼく耳悪いのかなぁ、と頭を掻きながらエンジュが首を傾げた。

















次の日から、エンジュに対する皆の声が不自然なほどに小さくなったとかならなかったとか。






















 終





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シリアスじゃない幻水初めて書いた・・・




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