知っている。




 祈るのは誰だってできると。













 知っている。




 どんなに願っても叶いはしないと。













 知っている。





 どんなにもがいても 涙を流しても
 救いなんてない。







 知っている。













 知っているけれど。









 





     +スフィア+











生きることを放棄することが容易いなどと、誰が言ったのだろう。


伸し掛かってくるものは、こんなにも重く胸を突き刺してくるのに。













「僕は死ぬことは許されない」










哀しむ人間。

成し遂げられぬ使命。

残すものに課せられる苦しみ。



















それは






絶望にも似た枷。




















「きみは・・・・・・優しいから」

フレイの震える肩に、エンジュがそっと手を置いた。













たとえば、すべてを捨てて逃げることができたのなら。


それで自分は微笑えるだろうか。








その思いだけで、自分は今ここに立っている。




「しょせん自己満足なんですよ。だから最初から僕に守れるものなんて何もなかった。生きていく資格も、生きていく力も。何もなかった」



















「きみは、生きていくのに必要なのはどっちだと思う?」




誰を傷付けてでも生き抜く意思と。

たとえその身を削ることになったとしても、人を守り抜く力と。




















放たれたエンジュの問いに、フレイは目を丸くしてエンジュの黒の瞳を見つめ、やがてふわりと微笑って言った。






分からない。



分からないけれど。








「僕はエンジュさんがいれば生きていけます」



















その答えに呆然としているエンジュを見て、フレイは声を立てて微笑うと、自分よりも少しだけ小さいその身体をそっと抱き締めた。
















すべて捨てることを許されないのなら。








すべてを忘れることは許されるだろうか。

















こうしている間だけでも。

















エンジュは目を閉じ、息を吐いた。

行動や言動とは裏腹に、かたかたと頼りなく震えている肩。


その心が優しすぎるゆえに。
その心があまりにも純粋すぎるゆえに。













なんて



哀れな。





















 終


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