さらさらと。流れていくだけ。
 どれだけ積み上げても、崩れていくだけ。





  +砂の器+




 そこは真っ白で空が青く、光が溢れる世界で。
 そこをただ歩いていたら、いつの間にか河原に辿り着いていた。

 細いけれどどこまでも続いていそうな そんな川が流れていて。


 向こう側には一面の花畑が広がっているのだけど。



 あぁ、たぶん
 この川を渡りきって あの花畑に辿り着ければ
 ぼくは死ぬんだな、と。


 エンジュは思った。











 はるか眼下には煉瓦の並べられた道が伸びていて。
 下では人々が買い物や散歩をしながら賑わっている。

 敷き詰められた煉瓦や石はとても硬そうだった。

 煉瓦で仕切られている、ちょっとした花畑が庭を彩っているのだけど。



 あぁ、たぶん
 ここから飛び降りて 死んでしまうには
 あの花畑をうまくよけなければいけないな、と。


 ルックは思った。















 死にたいの?と。

 いつだったか、誰かが言っていた。














 その問いに対して

 ルックは 別にどうだって、と。
 無表情に答えたし


 エンジュは うん、と。
 大きく頷いて微笑ってみせた。










 つくり上げる器には
 夢や 希望や 誇りや

 そんなものがいっぱいに詰まっていて。



 ちいさな手で少しずつ積み上げていく城は

 母であるはずの海の波に容易くさらわれていってしまう。








 さらさらと



 流れるように。













 自分達の意志は
 こどもが作る砂の器のようだと。


















 エンジュはひとつぶだけ涙をこぼし、足を踏み出した。

 ルックはかすかに笑みを浮かべ、その身を乗り出した。













 終


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