この手を切り落として。





  +イバラ+




 ごめんなさい。

 ごめんなさい。


 どうか

 赦してください。




「・・・・・・・・・」
 やな夢をみた。

 何をみたかは忘れたけれど。

 起き上がったエンジュは、自分がひどく息を切らしていて
 冷や汗でびっしょりになっていることに気付いた。



 まだ夜中で月もなく、真暗な外を窓から覗く。

 グレッグミンスター。
 赤月帝国を滅ぼし、自身の手でトラン帝国を打建てた。
 もちろん、仲間の助けなしではできなかった。

 でも



 仲間なんていなければ
 こんな思いをひきずることもなかった。



「・・・・・・」
 一瞬でもこんな考えを持ってしまった自分に吐き気がする。
 がたん、と木の窓を押し開ける。
 頬を冷たい気持ち良い風が撫でる。
「・・・・・・」
 何か呟こうとして。
 口を開けたエンジュだったけれど。その口をすぐに閉ざした。
 何が言いたかったのか忘れてしまったから。

 ばかみたい。
 だれかさんの口真似で呟いてみる。
 嘲笑混じりに。





「ルック、大事なものってある?」
「なにそれ」
 興味津々に問い掛けた自分に、相変わらず彼は冷たく言いのけた。

「大事なものだよ。命と同じくらい大事な、守っていかなきゃならないもの」
 そう言いながら、エンジュは自身の「大事なもの」である、従者や親友、そしてその親友から受けた紋章を思い浮かべた。
 そしてルックはエンジュの言葉にあぁ、とつまらなそうに頷くと、即答した。
「きみ」
「は?」
 予想もしない答えにエンジュが目を丸くする。
「きみを守ることがぼくの与えられた使命だし・・・。きみ以外の108星みんながそうじゃない」
「・・・それでいいのルックは」
「いいも悪いも。仕事だよ」





 そう言ってたのに。


 ごめんね。


 ぼくの方は
 きみに近付くべきじゃなかった。



 みんな、みんな大切なものは奪われていったから。

 例外なんてないんだ。

 それを知ってるべきだったね。



 でも きみも悪かったんだと思うよ。
 ぼくに心を許させるべきじゃなかったんだ





「・・・・・・ぼくのせいだけど、きみが悪いんだ」
 エンジュは右手の甲を左手で覆った。




 ぼくはきみだって大事だった。


 だから守りたかったんだ。

 でも そんなの無理だったんだ




 守りたいなら
 ぼくを守るなんて言うきみから離れるべきだった。





 ごめんなさい。

 ごめんなさい。


 どうか

 赦してください。











「・・・・・・・・・ルック・・・」


 エンジュは窓に突伏し、その名を呼び続けた。






 終


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