ひとすじの、あたたかさを。
+冷たい炎+
ため息がひとつこぼれた。
「うまくいかないもんだなぁ」
きみだからじゃない?
もうひとつ、ため息。
「どうして、ぼくだから?」
「きみは・・・・・・・・・ぼくにいわせないでよ」
きみがいちばんわかってるんだろ?
みっつめのため息。
手には、一羽の小鳥。
まだあたたかいけれど、もう息はしてない。
小さな心臓も時を刻んでないし、小さなくちばしが歌を囀る事もない。
さっきまではその心臓は動いていたし、小さなくちばしも瞳もしきりに生のよろこびを体中で表現していた。
でも、はしゃぎすぎたのか、小鳥は怪我を負ってしまった。
治してやろうと思った。
だからその小さなからだを手にとった。
右手でじゃない。ちゃんと、左手で。
落ち着いて、癒しの水の呪文を唱えた。
なのに。
「ぼくにはだれもすくえないんだ。のろわれてるから」
「わかってるならぼくにきかないでよ」
まだ、あたたかいけれど。
それももうすぐ冷たくなる。
「ひとのからだっていうのはつめたいんだね」
「なにいってるの。それ、ひとじゃないよ」
地面にうずくまって、冷たくなった小鳥のために小さな穴を掘りながら。
「おなじだよ。」
人も、動物も。
そう言って微笑うと、エンジュは小鳥の上にゆっくりと土をかけた。
「・・・・・・なに?」
何も言わずに手を握ってきたエンジュに、ルックが訝しげに眉を寄せた。
「あったかい」
エンジュが安心したように小さく微笑うと、ルックはますます怪訝そうに眉間の皺を深くした。
「『あれ』とくらべてるの?やめてよ」
「あったかいのは、からだじゃない。たましいがあったかいんだ」
「なにいってるの」
「きみはたましいがあるから、あったかいんだね」
「なにいってるの」
握られた手を振り払おうとすると、エンジュは握った手に強く力を込めた。
「っ・・・なに」
「ぼくは?」
「・・・・・・」
ねえ、ぼくは?
あたたかい?
覗き込んでくる黒の瞳はどこまでも澄んでいて。
「・・・・・・きみは」
つめたいよ、とか。
あたたかいよとか。
なにばかなこと言ってるの、とか。
自分が一番分かってるだろ、とか。
ルックが口から何を紡ごうとしたのかは、知れない。
たぶん、本人にも。
その口が完全に開ききる前に、エンジュは手を離してしまったから。
逃げたな、と。
ルックは無言で呟いた。
「わかってるよ、ぼくがいちばん」
「わかってるならきかないでよ」
見つめてくるエンジュの黒の瞳はどこまでも澄んでいて。
その中には、ルックの翠の瞳がはっきりと映っていて。
よっつめといつつめのため息が重なった。
終
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