意識しちゃうよ?

 いいんですか。















                      微笑み













 あいつが俺のこと好きってのは知ってる。


 まぁ、それについては
 少し やばいかな、とは思ってんだけど。






 意識過剰かといえばそう終わらせることもできる。
 だってアイツ、それを俺に言ったことは一度だって無ぇし。




 でも態度で示してくんだよ。



 俺の為に毎日朝早起きして、
 万屋に出勤して(あの姉の為に家での家事も全てやってんだろうけど)、
 んで朝飯作って俺を起こして…から始まるのよ、あいつの生活?

 お前は俺の奥さんですかって話。








「あーもー、銀さんいつも言ってるでしょ、水道の蛇口ちゃんと閉めてって!
 ポタポタ水垂らしちゃってもー一晩でどんだけ水浪費してんですか!」

「はいはい前も聞いたよ」

「前も言ったから今怒ってんだろーがァァ!!
 まったくもー……この分のお金僕にくださいって話ですよ…」

「金金ってセコい奴だなー。
 金はがっつく奴のとこには入ってこねぇんだ、そんなんじゃ大きくなれないよ新ちゃん」

「………」


 半眼で俺を見ていたが、俺が話し終わると待ちわびていたように嘆息する。
 そしてそのままのそのそと台所に向かった。
 勿論、飯をよそいにだ。

 これがいつもの風景。
 新八が万屋で働きたいっつって半ば強引に上がり込んで来てから1ヶ月半くらいが経った。

 元から病的に突っ込んでくる奴だし、人に慣れるのが上手い奴なんだろう。
 ここで働くようになってすぐ、このノリは始まった。



 最初はあっちが俺に何かといちゃもん付けて突っ掛かって来る。
 (まぁ実際原因は俺にあるんだけど)

 そして俺があーだこーだグダグダ始めて、
 それに突っ込みながらも、新八ある程度まで付き合うわけだ。

 だがそれには何らかの基準の、一定のラインがあるようで
 それを越えると新八は今みてぇにジト目で俺を見ると、嘆息して後はスルーする。

 上司を無視するなんて全く失礼な奴だよ。ったく突っ込みしか能がねーくせに。

 まぁ家事全般あいつに任せっきりの俺が言う台詞じゃねぇけどな。
 でもまぁ良いってことで。 あいつ俺の助手だし。 助手って雑用の意味も含んでるだろ。








「なぁ新八ー」

「なんですか」



 とりあえず呆れて離れてから自分の持ち場に戻っても、呼べば必ず返事する。
 一人でここでグータラしてた頃にはありえない光景だからそれがなかなかむず痒くもある。




「俺がお前に給料払わねぇで済んで、それでお前も大満足!な方法が
 たった一つあるんですけどー」

「まじすか。 なんスか、それ」

 表情一つ変えずにそう言い、新八はがぱ、と炊飯器の蓋を開けた。



「…新ちゃん反応冷たー」

「はいはい。で?」

 手馴れた調子で茶碗に飯をよそいながら、眉一つ動かさずに言う。





「俺とお前が結婚しちまえば良い! それっきゃない」






「………バカですか」







 ここって顔を赤らめて「……ばか!」って言うところだろ。オイ。
 思いっきり呆れ顔でバカにしやがった、野郎。



「なんで僕が銀さんと結婚して大満足なんですか。
 冗談はもっと儲かってから言ってくださいってマジで」

「あーあー俺は今傷ついちゃったよ。
 お前の心ない冷淡な突っ込みで俺のピュアな心は確実に傷ついちゃったよ」




 でも結婚ってあたりに拒絶反応示さない辺り、やっぱこいつ俺に惚れちゃってるって。
 しょーがねぇ、俺って全く罪な男だね。






 そうこう会話しながらも、居間の食卓は着々と茶碗や皿で埋まって行く。
 台所の傍で立っている俺は本当に立っているだけだ。
 だが新八はそれを気にする様子もなく淡々と居間と台所を4回ほど往復した。








「全く、新ちゃんこれ以上銀さんを馬車馬のように働かせてまでお金が欲しいの?」

 食卓に向かい合って座って、揃っていただきますをする。
 箸を片手にぼやく俺を、新八はお決まりのジト目で見た。

「そういうのは馬車馬のように働いてから言ってくださいよ…」

「俺のこと好きなくせにー」

「―――」


 不意打ち。
 予想通り、箸と茶碗を持ったまま新八は固まった。
 …よし、決まったな俺の殺し文句。



 俺の計算では
 そのまま新八は男前の俺を前に何も言えずに赤くなって、
 それを見た俺は大いに満足してこれからもそれをネタにからかってやる…

 はずだったんだが。




 予想外に、
 新八は ふ、と微笑い、続く動作で飯を一口口に入れた。

「…?」
 
 そして真っ直ぐ子どもの目を向けて俺を見る。
 透き通った黒、 はっきり言って苦手な目だ。
 そして穏やかな声で言った。



「僕が銀さんを? なんでそう思うんですか?」



 なんでって。
 そうきましたか。
 図星突かれてるくせに強情な野郎だチキショーめ。










 さて何と返そうか、と一瞬頭の中で焦った俺は

 もしかすると自分の中の何かをごまかしたいのかもしれない。


 新八に理由を押し付けてレンアイだとかそんな面倒くさいものを
 笑い事にしたいのかもしれない。

 笑い事に出来ると思ったんだよ、
 どうしようもなく子どもで何も分かっちゃいねぇ コイツなら。











 俺の頭の中に、さっきまで観ていたテレビ番組がふっと蘇った。


『世界の終わりまで、あと40億年。 そのときあなたは誰といますか』





 あぁ、これだ。






「オメー、世界の終わりがきたら俺といたいって思うだろ?」



 新八は呆れて何も言えない、という顔をしたがちゃんと返してきた。

「どんな自信ですか」

 ごもっとも。



「世界の終わりのときに一緒にいたい奴ってのは一番大事な奴なんだってよ、
 番組アンケートで言ってた」

「僕はそのときは姉上と一緒にいたいです」

「…」


 そりゃそうか。
 ごもっとも。



 新ちゃんこういう子だもんね。
 だから可愛いと思ってるんだけど。





 だけどその場合俺マジで立場ないね。
 顔をしかめていた俺に、新八は「じゃあ、」と笑って口を開く。



「いつ世界が終わるんですか? 銀さん」



 なんて訊くから。


「40億年後に太陽に吸い込まれて終わるんだってよ」



 と番組で得た知識を伝えたら。

 新八はこんなカオ見たこと無ぇって感じの顔で微笑って言った。
















「僕の世界は 銀さんがいなくなったら終わるんですけどね」














 不意打ち。






 どうしよう。


 殺し文句言われちゃったよ。


 しかも何だよそのカオ。
 不覚にもちょっと体温上がっちゃったよオイ。













「………」
「………」



 新八はそう言った後は、何も言わずにというか
 何事も無かったように、また飯を口に運び始める。






 あー。

 自分の中で色々と
 ごちゃごちゃあーだこーだ言ってごまかそうとする自分がアホに思える。




 全く笑い事じゃないね。
 どうしてくれんのよ。






 とりあえず勝手に気まずさを覚えた俺は、
 普段滅多に言わない


「…美味しい、新ちゃん」


 とか言ってみると


「気持ち悪いですよ」


 とか言われてしまった。
















 世界が終わるまで、まだまだ時間があるみたいだ。












   終








あはっ★

3周年企画でいただいたお題は「微笑み」(甘小説)でしたー。
銀新ばんざい!
まだキャラが掴めてないんで、二人の間にあるものとか色々どんな形にしようかとか悩んだんですが
夫婦馴れ初めで行ってみました(笑

甘い文は思い切りが要るんで、お題いただけてよかったです!どうもありがとうございました〜v
考えたら、新八ってあんまり笑わないのよね〜ってことで考え付いた話。

BGM『BASKET CASE』 BY:GREEN DAY


05/07/28


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