人と人との繋がりも

 言葉のたったひとつで壊れてしまう。



 言葉はそれほど無力で破壊的なものだと知っていたら



 人はどれだけのものを失わずに居れた?










     夕闇












 この世にあって当たり前のものはたくさんある。
 だがふとした瞬間にそれのことを想ってしまうと、
 どうしようもなく胸が詰まってしまったりすることもある。

 俺は今 正にその状態だった。





 買い物は誰か一人が行くことが多かった。(それは圧倒的に新八だったが)
 たまに二人で行くこともあったし
 たまに一人と一匹が行くこともあったし
 たまに二人と一匹が行くこともあったし

 三人で行くことも多かった。(三人と一匹、も)


 以前の俺からすると買い物は俺自身が一人で行くのが当たり前だった。
 でも今は?
 誰かが行ってる間家のソファでゴロゴロしながら待ってるのも当たり前だし
 「お遣い」なんてふざけた形で行かされることも当たり前になった。



 昨日は神楽と二人で行った。
 その前は新八と神楽と定春が。
 その前は…誰だったかな。 とりあえず俺は家にいた。

 つまり 俺が一人で買い物に行くなんてのは久しぶりだったわけだ。





「…………………」

 からんからん。
 突っかけの下駄が乾いた空気に乗って響く。



 今日は特に観たいテレビがあるわけでもなく、格別にノロノロ歩く。

 時刻は18時過ぎ。
 ちょっと遅めだ。 夕飯作り当番の眼鏡が文句を言わずに睨んできそうだ。



 はじめは何も考えることなく歩いていた。
 いつも通る道を歩いて、通り掛かった何人かの顔見知りと挨拶を交わし、
 何気なく歩いていて。
 頼まれた品物を店主を値切り倒して安く買い、お釣りをなんとか作ってチョコを一枚買って。
 普段通りに。


 そして来た道を普通に引き返し、また何も考えずに鼻歌でも唄いながら歩こうとしたとき。



 不意に空の色に目を奪われ、息を呑んだ。




 透き通るように眩しい蒼が、闇を孕んだ色にグラデーションを作り上げている。
 そしてそのふもとは燃えるように赤い。
 雲は転じてどす黒く染まり、あの蒼も暗く暗く闇に落ちて行く。

 名前や意味を考えることも馬鹿らしくなるようなキレイな空。


 そう、
 紅く燃えて終わりを告げる夕闇は、文句なしに綺麗で。


 その光景や事象がごくごく当たり前のことなんだと意識すると、


 同時に自分の持っている「当たり前」まで意識してしまったわけだ。





 なぜいるのか分からないウチの人間。(ペットも)
 どうしている?

 何を考えて?
 何を理由に?



 なぁ、 お前らって

 お前って


 なに?







 いつまでいる?






 辺りが暗くなって行くほどに、思考は渦を巻いた。




 この夕闇に紛れて何も見えなくなって。
 辺りに何も無くなっても太陽はまた自然に昇ってくる。


 何の約束もなしに、何十億年も前から繰り返してきたことを続けて。


 自分達の関係も、そんな風に
 何の言葉も必要なく
 何の約束もなく
 何の理由もなく
 日々を繰り返すものだったら良かったのに。



 でも

 この関係にはきっと名前が必要だから。

 言葉にしないと、
 約束もないと、
 理由がないと、
 目的がないと、
 いつか終わってしまう不安が付きまとってしまうから、どうしても。




 お前らは何?


 どうしている?

 何を考えて?

 何を理由に?


 いつまでいる?
 いつになったら終わる?

 いつまでいる?




 いつ 終わる?










 気がついたら太陽は沈んでて、さっきまで夕闇の中にいたのに


 俺はすっかり闇の中に取り残された。











「ちょ、銀さん遅いですよ!どうしたんですか」
「別にー。チョコ選ぶのに時間掛かった」
「何、チョコ!? お金ぴったり渡したのに!?
 値切ってお釣り作りやがったな!? もー主婦みたいなことして…」

 買い物に、買う分だけのお金を持っていく。
 立派な主婦の節約術じゃないですか新八君。
 まぁ俺の糖分欲はそれを上回りますけど。


「もう、それにしてもすっかり日が暮れちゃってるじゃないですか!
 神楽ちゃんも心配してたんですからねー」


「お前も?」

「? そりゃ まー」


 ちょっと真面目に聞きすぎたらしい。
 新八は神妙な顔で首を傾げ、何か言いかけたが料理に取り掛かった。













 当たり前なんだろ。

 お前がいるのも。
 明日も明後日もいるのも。



 でもそれは、

 一度昇った太陽が沈んで辺りが暗くなって、
 そしてまた昇ってくることと同じくらい


 当たり前のことか?


















 遅めの夕飯をとり、片付けを済ませて
 当たり前の繰り返しで 帰って行く新八を見送る玄関で。




「それじゃあ、また明日」




 草履を履き、立ち上がってくるりと振り向くと、新八はいつもの顔でさらりと言った。



 『また明日』






 それは当たり前のことか?


 一度昇った太陽が沈んで暗くなって、
 お前が家に帰って、
 そしてまた当たり前に太陽が昇れば


 お前がここに来るのも同じくらい当たり前?




「それって明日も来るって約束?」
「は?」


 ちょっと真面目に聞きすぎたらしい。
 新八は神妙な顔をしてしばらく俺の顔をまじまじと眺めた。



「そういう約束があるからお前はここに来んの?」
 



 今日の俺の葛藤はお前は知らない。
 俺だってお前が今日何考えてたかなんて知らないし。

 でもこの質問も言葉が絶望的に足りなかったけど
 それ以外訊きようはなかった。



 俺の言葉に新八は神経質にも棘を感じて怒るだろうかと思ったのだが。





「いいえ?」




 何も言わなくても当たり前に来ますけど?

 そう言って笑った。
 子どもらしくはないが新八らしい少しだけ大人びた笑い。









 あぁ、陽は当たり前に昇るんだって。


 じゃあそれと同じように


 俺はお前に約束しないよ?
 お前に名前も約束も理由も考えないよ?








 俺の地面が少しぐらりと揺らぎ、
 脳裏には今日みたあの夕闇が在った。











 まぁ、当たり前に俺の頭ん中もまた闇に呑まれるけど。
 それも当たり前のことだから。


 でも取り残されてるなんてことはないって
 何の約束もなく

 そういうものだって 思うことにするよ?

 


 あぁ、エンドレス。

 それじゃあ また明日。











   終








うわっはじめてのぎんしん!
3周年企画でいただいたお題「夕闇」(螺旋か銀魂)でしたー。
最初から銀魂、銀新で行こうと決めていたのですが考えてみたら銀新初めてだったYO…!
思いの外変な話になったな…(汗)なんかえらい抽象的な話ですみませ…
ちなみに私は、約束って好きです。

言葉って凄い手持ち無沙汰というか、足りないわ誤解は生むはでとっても厄介もんです。
でも言葉で終わるものって大抵言葉で始まってたりするんで
言葉ってとても素敵なきっかけだと思い升。
言葉で壊れるもの多いんだけどね…それでも言葉に救われるからね…(-_-) ぐるぐるしちゃうなぁ。


05/05/07


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