そんな顔で


 微笑ったから。









  +emotion+










 暖かい声。

 優しい笑顔。








「私は…もう間もなくして、あそこへ行くのだな」

 ぽつりと呟かれた声に、花太郎が箒を使う手を止めた。


「…ルキアさん、」


 いつもと変わらずに椅子に座り、四角い空を…その向こうに見える白い塔を見つめている『罪人』。
 その顔には、自嘲気味の笑みすら浮かべて。

「不思議な気持ちだ。…死を与えられる者とは、誰しもこんなにも心穏やかに居られるものなのかな」
「……こわくは、ありませんか」
 おずおずと尋ねる花太郎に視線を向け、ルキアは視線を落とし、ゆっくりと頷いた。

「ああ。虞れは、無い。後悔も。ただ――――」












 ―――未練、は。












 その笑顔は、やはり誰に向けられたものでもなく。
 ただ自嘲しているだけなのだろうから。









「……………」




 何かを怖れ、あるいは哀しんで、涙を流していたことはなかった。




 けれど、この人は









 本当に笑ったことだって、 一度もなかっただろう。












「…黒崎、一護さん……ですか」

 花太郎の言葉に、ルキアは寂しそうに顔を曇らせて。
「………今更遅すぎることではあるが な。」







 彼の。

 自分が運命を大きく違えさせてしまった彼の、
 時間を、もとあったものに戻してやることも出来ない。




 かと言って償うことも、謝ることも、出来なくて。








 そして、自分には無いから。



 今更彼に何かする
 時間も、術も、…資格も。






 でも、




 ただ――――――












「…その人に……黒崎さんに、逢いたいですか」


「…――――――――」
















 結局その答えを、


 沈黙のまま浮かべていた あの
 今にも泣きそうなほどの、悲しそうな笑顔の意味を。


 聞かないまま、あの人は懺罪宮に…いつも見上げていた、あの白い塔へと入れられて。


















「おい、花太郎!!何トロトロしてやがんだ!!!旅禍が入り込んだ、俺達も行くぞ!!」
「!…は、はい!!」












 走り出す理由は、知っている。



 その『旅禍』の中に ある人物が、居るだろうことも。












 捜そう。








 あの人を助け出して、
 そして



 あの人の本当の笑顔を




 解き放ってくれるだろう、死神を。
















 花太郎が、そうして一護達に出会うのは半日後。



























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