1.Skip Beat




 痛みなら、忘れられそうにない。
 これだけの痛みを忘れる自分を想像するだけで遺憾だからだ。 何のために耐えた、何のために剣を取った、何のために呼吸を続けることを選んだ。 私はともすれば『何のために』ばかりだ。 そしてそれを『自己のため』だと言えずに、否言いたくないというただそれだけで、自分以外の理由を探すためにどれだけ彷徨っただろうか。
 光だとか、自由だとか、希望だとか、信じれば全てを約束してくれる神だとか、そんな言葉が次々と口から飛び出した時代もあった。 違うな、口から飛び出したのではない、心の底の泉の底から、湧き出していたのだ。
 しかし今の私には光など必要無く、ただひたすら求めるものは私が消したいと望むものを消せるだけの圧倒的な力だった。 そして本当に・消えるべきであるものを消えれば良いと望めるだけの精神。 今の私には客観して正しいだろうとおおよその見当を付けられるほどの判断力も無いように思う。 憎いからだ。
 失くした腕が痛む度、剣の重みを片腕で引き受ける度、異形の悪魔にそれを振るう度、沸き起こって消えないのは憎しみだ。 奪ったとか奪われたとかどんな理由だったかは忘れた。 どんな理由でも構わないただひたすらに奴らを消せればそれでいいと、そう思っていた。

 そして私は彼に出会った。
 出会うことを後悔するような、胸に楔を打ち付けられるような そんな感慨のする出会いだったと思う。





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