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 例えば 晴れたまま雫を落とすこの空のような








  + 予定外の出来事 +








 自分が相手をどれだけ好きかということだけが重要で
 相手にどのように思われるかなどは問題ではない と言う者もいる。


 一理ある。
 だがとんでもない話だ。









 その人がいなければ息もしたくない、

 そんな相手に
 必要だ と
 その言葉をもらうことを望むことは別に贅沢な話ではないと思うのだが。








 言うはずがないと分かっているから言わせたくなるのだが、
 残念ながら
 今の自分には相手にそんな言葉を口走らせるような術を知らない。



 自分がそんな存在である と自惚れることも残念ながらできない。











「カノンさーん、一緒にご飯食べましょー」
「うん。 屋上?」
「はい♪」


 普段通り交わされる会話。
 何のこともない、心がどの程度通じ合っているか知ることもできないような内容。(じゅうぶんだ、と言う人もいるだろうけど)





 そして今日も訊いてみる。



「ひよのさんは何が大事?」
「だからそういう質問って難しいんですよね。 全部といえば全部ですし…」
「全部要らないって言えば要らない?」
「…そうですね」

 無表情に首を傾げ、そう言って頷く。
 そしてまた弁当をつつき始めるひよのに、カノンは盛大に嘆息して。


「あなたが私には必要不可欠ですよ、くらい言えないの?こういう場で」
「なんですかそれ。 カノンさんは何が大切なんですか」
「ひよのさんが僕には必要不可欠だよ」
「はいはい」

 冗談だと受け取ったのだろう。
 というか前後の会話によってどんな内容も冗談な内容になってしまうだろう。
 いつもこうだ。




 関係上、心は同じかは知れないが、少なくとも通じ合ってはいると思う。
 相手は自分がどんな気持ちを持っているか知っているだろうし。

 けれど、こちらから相手の気持ちを読めないのはなぜだろう。



 不公平だ。
 というか 相手の気持ちひとつを信じれないだけで、こんなにも
 一緒にいるこの時間、この場所でさえ嘘臭く感じる。


 別に贅沢な話ではないはずだ。
 自分を何よりも大事だと言って欲しいと言っているわけではない。
 ただ どう感じているか知りたいだけ。
 まぁ、言っているわけではない というだけであって、何よりも大事だと言って欲しいに決まっているのだが。




「ひよのさんは酷いなー」
「む。 何がですか」
「僕の気持ちだけ知ってて、何も応えてくれないじゃない」
「することはしてるじゃないですか」
「何それー愛がなーい」
「ないですか?」


 何を言ってもこの調子だ。
 鈍いわけではないだろうが。
 まぁこの場合、確実に確信犯だろうが。

 やってられない。
 いっそ愛想を尽かしてやりたいなんて心にもないことを思ってみる。
 まぁ、できるもんならの話だけど。










 そんなこんなで、いつものように昼休みが終わり、午後の授業になり、それも終わり。
 放課後、薄暗く人も少ない校舎を歩いていると、下から声を掛けられた。
 窓から顔を出して見てみると、裏庭でひよのが見上げていて。
「カノンさん、一緒に帰りましょー」
 考えてみればいつもだけど。 昼に誘われたときと同じノリだ。
「…どうして」
 少しだけ声のトーンを落として返してみる。
 するとあちらは不思議そうに首を傾げて、
「いいじゃないですか。一緒に帰りましょう! 一人より二人の方が楽しいです!」
「どうしても?」
「はい!」
「そんなに僕がいなきゃダメなの?」


 苦笑して言ってみる。
 冗談のつもりだった。

 気持ちは嘘ではないけれど言葉は思いきり冗談だった。



 のに。







「はい!」








 傾いた陽に橙に照らされた笑顔。
 こんな自分には勿体無いほど、幸せそうで楽しそうな笑顔。




「……うん、今行くよ」



 ぽつりと喉からひとこと搾り出して、下に降りるべく廊下を走り出す。



「……――――」






 あぁ、なんだか全てが嘘臭い。




 まあ、 別に贅沢な話ではないだろう。


















 終









甘!
ちょっとテイスト変えてみました。ヒルベルトがひよのさんにぞっこんな話。
甘!!